一妻多夫とは、1人の女性が同時に複数の男性を夫として持つ婚姻形態です。世界的には「ポリアンドリー(Polyandry)」と呼ばれ、ネパールのヒマラヤ山岳地域や歴史的なチベット社会などで実践されてきました。特に、複数の兄弟が1人の女性を妻として迎える「兄弟型一妻多夫」は、土地や財産を分散させず、家族経営を維持するための仕組みとして知られています。
一方、日本では民法732条が重婚を禁止しており、1人の女性が複数の男性と法律上の婚姻関係を結ぶことはできません。2026年現在、ネパールでも一妻多夫は法律上認められていませんが、地域社会では伝統的な慣習が残る事例が報告されています。制度が生まれた理由から、子どもの父親の決め方、相続、現代の実態まで、法律と文化の両面から整理します。
【基礎知識】一妻多夫とは?一夫多妻との違いと代表的な制度

一妻多夫は、1人の女性が同時期に複数の男性と婚姻関係を持つ社会的な婚姻形態です。英語では「Polyandry」と表記され、日本語では「一妻多夫制」とも呼ばれます。
一般的な一夫一婦制では、夫と妻がそれぞれ1人ずつ婚姻関係を結びます。それに対して一妻多夫では、妻1人に対して複数の夫が存在します。
ただし、一妻多夫は世界共通の単一制度ではありません。婚姻の成立方法、夫同士の関係、子どもの親としての位置づけ、財産の管理方法などは、地域や民族によって異なります。
一夫多妻と一妻多夫の違い両者の最大の違いは、1人の配偶者に対して複数の相手がいる側が男女のどちらなのかという点です。
- 一夫多妻:1人の男性が複数の女性を妻とする婚姻形態。
- 一妻多夫:1人の女性が複数の男性を夫とする婚姻形態。
- 一夫一婦:1人の男性と1人の女性が婚姻関係を結ぶ形態。
一夫多妻は英語で「Polygyny」、一妻多夫は「Polyandry」と区別されます。両方を含む広い概念が複婚(Polygamy)です。
ここで注意したいのは、一夫多妻が認められている国だからといって、一妻多夫も認められているとは限らないことです。婚姻制度は各国の法律によって異なり、男女の扱いも必ずしも対称ではありません。
兄弟型一妻多夫とは何か一妻多夫の代表的な形態が「兄弟型一妻多夫」です。
これは、実の兄弟や同じ親族集団に属する複数の男性が、1人の女性を共同の妻として迎える仕組みです。英語では「Fraternal Polyandry」と呼ばれます。
例えば、3人兄弟が1人の女性と婚姻する場合、家庭内では3人全員が夫として位置づけられます。兄弟がそれぞれ別の家庭を築くのではなく、同じ世帯で生活し、農業や牧畜、財産管理などを協力して担う形です。
兄弟同士という既存の親族関係を基礎にするため、無関係な男性同士が共同で家庭を形成する場合とは、家族内の協力関係や財産管理の仕組みが異なります。
なお、一妻多夫には兄弟以外の男性が夫となる形態もあります。ネパールやチベットの事例が注目される理由は、この兄弟型が土地制度や家族経済と深く結びついていたためです。
【日本の法律】一妻多夫は可能?民法732条と刑法184条を解説
民法732条が定める重婚禁止日本で一妻多夫を法律上の婚姻として成立させることはできません。その根拠となるのが民法732条です。
民法第732条(重婚の禁止)
配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。
この規定は、すでに配偶者がいる人が、別の相手と新たに婚姻することを禁止しています。
例えば、女性Aが男性Bと法律上の婚姻関係を結んでいる場合、婚姻関係を解消しないまま男性Cとも婚姻届を提出することはできません。
また、民法739条では婚姻届の提出によって婚姻が成立すると定められ、740条では法律上の要件に違反する婚姻届を受理できないとしています。
つまり、日本では複数の夫を戸籍上の配偶者として登録する仕組みそのものがありません。
刑法184条では重婚に刑事罰もある重婚禁止は民法上のルールだけではありません。刑法184条には重婚罪が規定されています。
2025年6月1日から施行された拘禁刑への制度変更を反映した2026年現在の条文では、配偶者のある者が重ねて婚姻した場合、2年以下の拘禁刑に処するとされています。また、その相手方となって婚姻した者も同様に処罰の対象です。
したがって、すでに法律上の夫がいる女性と別の男性が重ねて婚姻するケースも、単に婚姻届が受理されないという問題にとどまりません。
日本で複数の夫と同居することはできる?ここは法律上の婚姻と共同生活を区別する必要があります。
成人同士が合意して同じ住居で生活することと、全員が法律上の夫婦になることは別問題です。複数人で同居すること自体が、直ちに重婚罪になるわけではありません。
ただし、共同生活をしているからといって、同居する男性全員に法律上の配偶者としての権利が生まれるわけではありません。
日本では法律婚の配偶者として認められるのは1人です。ほかの同居者については、財産、扶養、医療時の意思決定、子どもの親権や相続などで、法律婚とは異なる扱いになる可能性があります。
このように、生活実態としての共同生活と、法律が認める婚姻制度は分けて考える必要があります。
【海外の実例】ネパールとチベットの一妻多夫はどう違う?
ネパールのヒマラヤ地域で残る兄弟型一妻多夫一妻多夫の代表的な事例として知られているのが、ネパール北西部のヒマラヤ山岳地域です。
特にフムラ郡のリミ渓谷では、兄弟が1人の女性を妻として迎える慣習が研究されています。
2025年2月4日に公表されたRamesh Prasad Adhikary氏の研究「Polyandry in Nepal: Unraveling cultural, ecological, and societal dimensions in the Limi Valley of Humla」では、リミ渓谷の36世帯を対象とした調査が報告されました。
その調査では、対象となった36世帯の47%で一妻多夫が実践されていたとされています。1人の女性を最大5人の兄弟が妻として共有する事例も紹介されています。
ただし、これは特定の山岳地域における限定的な調査結果です。ネパール全国の世帯の47%が一妻多夫という意味ではありません。
同研究が挙げる主な背景は、耕作可能な土地の不足、家族財産の維持、兄弟間の協力関係です。兄弟が別々に結婚して家庭を分けると、限られた農地や家畜、生活資源が分散してしまいます。
一妻多夫は、こうした経済的な制約に対応するための家族戦略として機能してきました。
チベットの伝統的な一妻多夫チベットでも、兄弟型一妻多夫は歴史的に確認されている婚姻形態です。
人類学者メルヴィン・C・ゴールドスタインは、1971年に発表した論文「Stratification, Polyandry, and Family Structure in Central Tibet」で、伝統的なチベット社会の婚姻制度と土地保有制度の関係を分析しました。
同研究によると、チベットの一部の土地保有階層では、兄弟が別々の家庭を形成することを避け、1人の妻を共有することで家族単位の土地を維持していました。
研究対象となったギャンツェ地区の23の土地保有家族では、62件の初婚が記録され、そのうち32件、約51%が兄弟型一妻多夫でした。
これはチベット全体の普及率ではなく、特定の地域・社会階層を対象とした歴史的調査の結果です。
ゴールドスタインの分析で重要なのは、一妻多夫が単純に珍しい婚姻習慣として存在したのではなく、土地の保有権や家族の継承制度と一体になっていたという点です。
地域別に見る一妻多夫の実態と法律ネパールやチベットの事例を比較すると、一妻多夫が地域の文化や経済環境に応じて異なる形で成立してきたことが分かります。
| 地域・調査 | 家族・婚姻の特徴 | 調査・現状 |
|---|---|---|
| ネパール・リミ渓谷 | 複数の兄弟が1人の女性を妻とする | 2025年の36世帯調査で47%が実践 |
| ネパール全国 | 複数配偶者を持つ世帯が存在 | 2021年国勢調査を分析した2025年政府報告では、男性世帯主の0.7%が複数配偶者を持つと推計 |
| 中央チベット・ギャンツェ | 土地保有家族の兄弟型一妻多夫 | 1965~1967年の調査を基礎とする1971年の研究で、対象婚姻の約51% |
| チベット・キロン | 兄弟型一妻多夫を含む柔軟な家族形態 | 1958年の世帯記録を用いた2021年の歴史研究で分析 |
| クンブ地方のシェルパ社会 | 兄弟が共同で1人の妻を迎える世帯 | 1950年代の推定では世帯の約8%。1993年刊行の研究書では大幅な減少が報告された |
ネパール政府国家統計局が2025年に公表した「Nuptiality in Nepal」では、2021年国勢調査のデータを間接的に分析し、複数配偶者を持つ男性世帯主を27,714人、全男性世帯主の0.7%と推計しています。女性世帯主については13人でした。
ただし、2021年国勢調査では同居する配偶者の人数を直接尋ねていません。そのため、この数字から一妻多夫だけの全国的な普及率を算出することはできません。
また、ネパール政府の同報告書は一夫多妻と一妻多夫の双方を法律で禁止されている婚姻形態と説明しています。慣習が残っていることと、国家が婚姻制度として認めていることは別なのです。
【成立する理由】なぜ一妻多夫が生まれた?土地・財産・労働の関係
理由1:限られた農地を兄弟で分割しないため一妻多夫が成立した大きな理由の一つは、土地の分割を防ぐことです。
ヒマラヤの山岳地域では、標高や地形、気候の制約によって農業に適した土地が限られています。家族が保有する土地を兄弟それぞれに分けると、一世帯当たりの農地が小さくなり、農業だけで生活を維持することが難しくなる場合があります。
そこで、兄弟が同じ女性と結婚し、同じ家族単位を維持する方法が選ばれました。
土地を兄弟ごとに分割するのではなく、共同で管理することで、次世代にもまとまった財産を引き継ぎやすくなります。
理由2:家族全体の労働力を確保するため山岳地域の暮らしでは、農業だけでなく、牧畜、交易、家畜の世話、物資の運搬など、多様な仕事が必要になります。
兄弟が同じ家庭を維持すれば、それぞれが異なる仕事を担当できます。
例えば、ある兄弟が農業を担当し、別の兄弟が家畜の世話をし、もう1人が交易に出るといった分業が可能です。
妻と子どもが暮らす家庭を一つに保ちながら、複数の成人男性が異なる経済活動を担うことで、世帯全体の生活基盤を維持しやすくなります。
理由3:兄弟間の財産争いや家族分裂を防ぐため兄弟がそれぞれ別の女性と結婚すれば、新しい家庭が複数生まれます。それぞれの家庭には独自の生活費、財産管理、子どもの養育などが必要になります。
こうした状況は、土地や家畜の所有権をめぐる対立につながる可能性があります。
一妻多夫では、兄弟が同じ家庭を維持することで、家族の経済的な一体性を保とうとします。
ゴールドスタインのチベット研究でも、兄弟が別々の婚姻単位を形成することによる家族財産の分裂を避けるという動機が重視されています。
理由4:人口構成や地域の文化的背景一妻多夫の成立には、人口の男女比や婚姻に関する文化的規範も関係する場合があります。
ただし、男性の人数が女性より多いから一妻多夫が生まれる、という単純な説明では不十分です。
ネパールのリミ渓谷の研究でも、人口構成に加えて農地の不足や家族財産の維持が重要な要因として挙げられています。
一妻多夫は、自然環境、経済活動、親族関係、土地制度が複雑に組み合わさった社会的な仕組みとして理解する必要があります。
【家族構成と相続】一妻多夫の子どもの父親は誰?財産はどう引き継ぐ?
子どもの父親は生物学上の父と社会的な父が異なることもある一妻多夫について多くの人が疑問に感じるのが、子どもの父親をどう決めるのかという問題です。
兄弟型一妻多夫では、複数の男性が同じ女性の夫となるため、生物学上の父親と、家族の中で父親として認識される人物が必ずしも一致するとは限りません。
ネパールのニンバ社会を対象としたYouba Raj Luintel氏の2000年の研究では、長兄が婚姻によって生まれた子どもたちの社会的な父親として位置づけられる事例が紹介されています。
一方、日常生活では生物学上の父親が認識されることもあり、誰を父親とするかについて妻が重要な役割を担う場合も報告されています。
つまり、父親という概念には、少なくとも次のような異なる側面があります。
- 生物学上の父親:子どもの遺伝的な父親。
- 社会的な父親:家族や地域社会で父親として認識される人物。
- 法律上の父親:その国の法律に基づいて親子関係が認められる人物。
この3つが必ずしも同じ人物になるわけではありません。また、父親の決め方は地域ごとに異なり、すべての一妻多夫社会で長兄が父親になるわけでもありません。
家族構成は一般的な夫婦世帯とどう違う?兄弟型一妻多夫の家庭では、妻と複数の夫、そして子どもたちが同じ世帯を形成することがあります。
夫となる兄弟は、年齢や役割、家族内の立場によって異なる責任を担います。
長兄が家族の代表として財産や家計を管理し、ほかの兄弟が農業や牧畜、交易などを分担するケースもあります。
ただし、すべての家庭で長兄が絶対的な権限を持つわけではありません。妻の意思決定への関与や兄弟間の役割分担も、地域の慣習や家族ごとの事情によって異なります。
相続はどのように行われるのか一妻多夫における財産承継の特徴は、個人ごとの財産分割よりも、家族単位の資産を維持することが重視される場合がある点です。
特に歴史的なチベット社会では、家族が保有する土地を兄弟間で細かく分割しないことが、家族制度を維持するうえで重要でした。
一妻多夫は、単に複数の男性が同じ女性と婚姻する仕組みではなく、土地や家畜などの資産を次世代に引き継ぐための制度とも結びついていたのです。
ただし、伝統社会の財産承継と現代国家の相続法は別のものです。慣習上の家族単位での承継を、そのまま現代の法律上の相続制度に当てはめることはできません。
日本で一妻多夫の家庭に子どもが生まれた場合日本では、法律上の婚姻関係が成立している夫が1人に限られるため、複数の男性を同時に法律上の父親として登録する仕組みはありません。
民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子を、その婚姻における夫の子と推定する嫡出推定制度を定めています。
2024年4月1日には嫡出推定制度の改正が施行され、子どもや母親にも嫡出否認権が認められるなど、親子関係に関するルールが見直されました。
したがって、実際の血縁関係と法律上の父子関係が異なる場合には、法律で定められた手続きに沿って親子関係を確認する必要があります。
また、民法887条では子の相続権が、890条では配偶者の相続権が定められています。法律婚として認められていない同居男性は、同居しているという理由だけで配偶者としての法定相続権を取得するわけではありません。
子どもの利益を守るためにも、親子関係の確認、認知、遺言、財産管理などを適切に整理することが大切です。
【2026年の現状】一妻多夫は現在も存在する?ネパールとチベットの法律
ネパールでは伝統的な慣習と法律が異なるネパールでは、伝統的に一妻多夫が行われてきた山岳地域があります。しかし、2026年現在、国の法律が一妻多夫を正式な婚姻制度として認めているわけではありません。
2017年制定のムルキ刑法典175条は、婚姻関係が継続している男性が別の婚姻をすることや、既婚男性であると知りながらその男性と婚姻することを禁止しています。
この条文は重婚を禁止する規定であり、ネパール政府の国家統計局も、一妻多夫を含む複婚を現代の法律上禁止される婚姻形態として説明しています。
一方で、2025年の政府報告書やリミ渓谷の研究が示すように、地域社会では慣習としての実践が報告されています。
つまり、ネパールでは「伝統として存在すること」と「法律で認められていること」が一致していないのです。
チベットでは歴史的慣習と中国の現行法を区別するチベットは独立した国家ではなく、中国の一部に位置する地域です。そのため、チベットの伝統的な婚姻慣習と中国の現行法を区別する必要があります。
中国民法典1041条は、一夫一婦制と男女平等の婚姻制度を定めています。また、1042条では重婚を禁止しています。
したがって、伝統的なチベットの一妻多夫が、中国の法律上の正式な婚姻制度として認められているわけではありません。
一方、ワシントン大学セントルイス校の人類学者Geoff Childs氏が2021年に発表した研究「The Tibetan stem family in historical perspective」では、1958年の世帯記録と関係者への聞き取りを通じて、チベットの家族制度の歴史的な実態が分析されています。
同研究は、一妻多夫だけでなく、一夫一婦や一夫多妻も含む柔軟な家族形態が存在したことを示しています。また、近年の関連研究では、一部のチベット地域で家族労働力や土地の維持を目的とした一妻多夫の再評価・再興も指摘されています。
ただし、こうした研究は特定の地域や歴史的資料に基づくものであり、チベット全体で一妻多夫が一般的に行われていることを意味するものではありません。
一妻多夫が世界から消えたわけではない一妻多夫は、かつての珍しい風習として完全に過去のものになったわけではありません。
2025年に公表されたネパールのリミ渓谷の研究は、地域社会における実践を具体的に報告しています。また、歴史研究では、伝統的な家族制度が現代の経済環境や土地所有の変化によって形を変えていることも示されています。
ただし、2026年現在、ネパールや中国のように国全体として一夫一婦制を採用する国では、一妻多夫は正式な法律婚として認められていません。
世界の婚姻制度を調べる際には、次の3つを区別が必要です。
- 法律上の制度:国の法律が一妻多夫を正式な婚姻として認めているか。
- 地域の慣習:法律とは別に、伝統的な家族形態として実践されているか。
- 調査上の実態:限定的な地域調査なのか、全国規模の統計なのか。
この3つを混同すると、「ネパールでは一妻多夫が合法」「チベットでは誰もが一妻多夫で暮らしている」といった誤った理解につながります。
【プロの結論】一妻多夫を理解するために知っておきたい本質
一妻多夫を理解するうえで最も重要なのは、婚姻形態だけを切り離して考えないことです。
ネパールやチベットの歴史的事例では、一妻多夫は土地の保有、家族の労働力、財産の継承、兄弟間の協力関係などと密接に結びついていました。
特に兄弟型一妻多夫は、限られた資源を複数の家庭に分散させず、家族全体で維持するための社会的な仕組みとして機能してきました。
一方、現代の法律制度では、婚姻関係、親子関係、相続権を明確にするため、配偶者の人数や親族関係が法律によって規定されています。
そのため、一妻多夫を単純に「女性が複数の男性と結婚できる珍しい制度」と捉えるだけでは、本質を理解できません。
記事やSNSで一妻多夫に関する情報を見かけたときは、次の3点を確認すると、情報の正確性を判断しやすくなります。
- 国全体で認められた法律上の婚姻制度なのか、特定地域に残る慣習なのか。
- 全国統計に基づく数字なのか、特定の村や世帯を対象とした研究なのか。
- 生物学上の父親、社会的な父親、法律上の父親を区別しているか。
一妻多夫の歴史は、婚姻制度が必ずしも世界共通ではなく、自然環境や経済事情、土地制度、親族関係によって異なる形で成立してきたことを示しています。
【一妻多夫に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:一妻多夫が認められている国はどこですか?
A1:ネパールのヒマラヤ地域や歴史的なチベット社会などで実践例が報告されています。ただし、ネパールも中国も現行法では一夫一婦制を採用しており、一妻多夫を正式な婚姻制度として認めているわけではありません。
Q2:日本で一妻多夫は可能ですか?
A2:法律上の婚姻としては不可能です。民法732条が重婚を禁止し、刑法184条では重婚に対する刑事罰も定めています。複数人で同居することと、複数の夫を法律上の配偶者にすることは別です。
Q3:兄弟型一妻多夫では、子どもの父親は誰になりますか?
A3:地域や家族の慣習によって異なります。生物学上の父親を特定する場合もあれば、長兄などが社会的な父親として子どもを育てる場合もあります。すべての一妻多夫社会で同じルールが採用されているわけではありません。
Q4:一妻多夫が生まれた最大の理由は何ですか?
A4:代表的な理由は、限られた農地や家族財産の分割を防ぐことです。兄弟が同じ家庭を維持することで、土地や家畜を共同管理し、農業や牧畜に必要な労働力を確保する狙いがありました。
Q5:ネパールでは現在も一妻多夫が行われていますか?
A5:はい。2025年に公表されたリミ渓谷の調査では、対象36世帯の47%で実践が報告されています。ただし、ネパールの現行法では認められていない婚姻形態であり、この調査結果を全国の普及率として扱うことはできません。
Q6:一妻多夫と一夫多妻は何が違いますか?
A6:一夫多妻は1人の男性が複数の女性を妻とする形態、一妻多夫は1人の女性が複数の男性を夫とする形態です。両方とも複婚に含まれますが、各国の法律上の扱いは異なります。
Q7:一妻多夫の家族では財産や相続をどう管理しますか?
A7:伝統的な兄弟型一妻多夫では、土地や家畜などの財産を兄弟で共同管理し、家族単位で維持することが重視される場合があります。ただし、具体的な相続方法は地域の慣習や法律によって異なります。
一妻多夫とは、1人の女性が複数の男性を夫とする婚姻形態であり、特にネパールや歴史的なチベット社会の兄弟型一妻多夫が代表的な事例として知られています。
その成立には、農地の不足、財産の分割防止、家族の労働力確保、兄弟間の協力といった現実的な事情がありました。単なる男女関係の問題ではなく、家族経済や土地制度と結びついた社会的な仕組みだったのです。
日本では民法732条と刑法184条によって重婚が禁止されており、複数の夫を法律上の配偶者とすることはできません。ネパールや中国でも、伝統的な慣習が残る地域はあるものの、現行法上は一妻多夫が正式な婚姻制度として認められていません。
2026年現在、一妻多夫を正しく理解するためには、歴史的な慣習、地域社会の実態、国家の法律を分けて考えることが欠かせません。世界の婚姻制度を比較することは、家族のあり方や財産の継承、社会が婚姻に求める役割を考える手がかりにもなります。
主な参照資料・根拠
- 日本の民法・刑法(e-Gov法令検索)
- ネパール国家統計局『Nuptiality in Nepal』(2025年)
- Ramesh Prasad Adhikary『Polyandry in Nepal』(2025年)
- Melvyn C. Goldstein『Stratification, Polyandry, and Family Structure in Central Tibet』(1971年)
- Geoff Childs『The Tibetan stem family in historical perspective』(2021年)
- Youba Raj Luintel『Locating Power in Polyandry』(2000年)
- 中国民法典・婚姻家庭編(1041条・1042条)