箱根駅伝で「山の神」と呼ばれてきた代表的な選手は、今井正人、柏原竜二、神野大地の3人です。
2026年の第102回大会では黒田朝日が新たな存在感を示し、「シン・山の神」という呼称が定着するきっかけになりました。
まずは、それぞれの選手が活躍した大会と主な実績を確認しましょう。
初代・今井正人|3年連続の5区区間賞を達成
順天堂大学/第81回~第83回大会
2005~2007年:5区3年連続区間賞
初代の山の神といえば、順天堂大学の今井正人です。
今井は2005年の第81回大会から2007年の第83回大会まで、5区で3年連続の区間賞を獲得しました。
特に2005年の第81回大会では、5区を1時間9分12秒で走破。従来の区間記録を2分17秒更新する圧倒的な走りを見せました。
翌2006年には5区の距離が延長されたにもかかわらず区間賞を獲得。2007年も区間賞を獲得し、3年間にわたって山上りの主役であり続けました。
第83回大会では、4区から5区へのたすきを受けた時点で先頭から大きく離れていた順天堂大学を、今井が猛烈な追い上げで往路優勝へ導きました。
日本テレビの公式インタビューで今井自身が振り返っているように、山上りは最初から本人が希望していた区間ではありません。チームにとって最善の選択として5区を任され、その役割を見事に果たしたのです。
卒業後はトヨタ自動車九州に進み、2015年の世界選手権北京大会ではマラソン日本代表に選出されました。
2代目・柏原竜二|4年連続区間賞の圧倒的な実績
東洋大学/第85回~第88回大会
2009~2012年:5区4年連続区間賞
2代目の山の神として知られるのが、東洋大学の柏原竜二です。
柏原の最大の特徴は、大学1年生から4年生まで、4大会連続で5区の区間賞を獲得したことです。
その記録は次のとおりです。
- 2009年・第85回大会:1時間17分18秒
- 2010年・第86回大会:1時間17分08秒
- 2011年・第87回大会:1時間17分53秒
- 2012年・第88回大会:1時間16分39秒
4年間、一度も5区の区間賞を譲らなかったという実績は、箱根駅伝の歴史でも際立っています。
特に2012年の第88回大会では、1時間16分39秒で区間賞を獲得。東洋大学の往路優勝にも貢献しました。
柏原が注目されたのは、単に山を速く走るだけではありません。苦しい上り坂でライバルとの差を縮め、チームの順位を大きく押し上げる勝負強さがありました。
4年連続という継続性こそ、柏原が2代目の山の神と呼ばれる大きな理由です。
3代目・神野大地|2015年に区間新記録を樹立
青山学院大学/第91回・第92回大会
2015年:5区1時間16分15秒
3代目の山の神は、青山学院大学の神野大地です。
神野が一躍注目を集めたのは、2015年の第91回箱根駅伝でした。
5区を1時間16分15秒で走り、当時の区間新記録を樹立。青山学院大学の往路優勝に大きく貢献しました。
神野の走りは、柏原や今井とは異なる時代の山上りの強さを印象づけました。
2016年の第92回大会でも5区を担当し、1時間19分17秒で区間2位を記録しています。
2大会連続で山上りの上位争いに加わったことも、神野の評価を高めました。
ただし、神野が記録した2015年の1時間16分15秒は、現在の5区より長い旧コースでの記録です。2026年の黒田朝日の記録と比較する際には、この点を押さえておく必要があります。
4代目候補から「シン・山の神」へ|黒田朝日
青山学院大学/第102回大会
2026年:1時間7分16秒
2026年1月2日、第102回箱根駅伝の5区で歴史的な走りを見せたのが、青山学院大学4年の黒田朝日です。
黒田は5位でたすきを受け取り、先頭との約3分24秒の差を縮めながら驚異的なペースで山を駆け上がりました。
そして、従来の区間記録だった2025年の若林宏樹の1時間9分11秒を、1分55秒も更新する1時間7分16秒を記録しました。
結果は区間1位。青山学院大学を往路優勝へと導きました。
レース後、黒田は「僕がシン・山の神です」と宣言。従来の山の神の系譜を意識しながらも、新しい呼称を自ら掲げたことが話題になりました。
日刊スポーツの報道によると、黒田については「4代目」という呼び方も候補として話題になりましたが、神野大地が「山の超人」と表現するなど、さまざまな呼称が飛び交いました。最終的には黒田本人と原晋監督の間で使われていた「シン・山の神」という呼称が注目されました。
【歴代比較表】4人の山の神の記録と実績を一覧でチェック

ここまで紹介した4人について、大学・活躍した時期・5区での実績を整理します。
この表で注目したいのは、今井と柏原が複数年にわたって区間賞を獲得した一方、神野と黒田はそれぞれ異なる時代のコースで強烈な記録を残した点です。
つまり、山の神の評価には、単年度のタイムだけでなく、継続的な活躍、チームへの貢献、走りのインパクトなど複数の要素が関係しています。
【5区の歴代区間記録】黒田朝日の1時間7分16秒はなぜすごい?
2026年の第102回大会で黒田朝日が記録した1時間7分16秒は、現在の5区コースにおける新記録です。
2025年までの記録と比べても、その更新幅は際立っています。
2026年までの5区歴代上位記録現在の20.8kmコースにおける主な歴代記録は次のとおりです。
| 順位 | 選手 | 大学 | 年 | 記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 黒田朝日 | 青山学院大学 | 2026年 | 1:07:16 |
| 2位 | 若林宏樹 | 青山学院大学 | 2025年 | 1:09:11 |
| 3位 | 山本唯翔 | 城西大学 | 2024年 | 1:09:14 |
黒田は2位の若林宏樹に対して1分55秒もの差をつけています。
5区は山上りという特殊な条件があるため、単純な走力だけで結果が決まる区間ではありません。上り坂での推進力、呼吸や体力の配分、気象条件への対応、終盤の下りに向けた脚の残し方など、複数の能力が大切です。
この条件下で従来記録を大幅に更新したことが、黒田の走りを特別なものにしています。
2026年の黒田朝日はどれほど速かったのか黒田の1時間7分16秒は、単に歴代1位というだけではありません。
2025年に若林宏樹が樹立した記録をわずか1年で大幅に塗り替えた点にも意味があります。
加えて、黒田は単独で記録を狙うだけではなく、チームの往路優勝が懸かる状況で走っていました。
5位でたすきを受け取った後、前を走る選手を次々と追い抜き、最終的にトップで芦ノ湖へ到着しました。
区間記録とチームの勝利を同時に実現したことが、2026年の第102回大会を象徴する場面になりました。
【コース変更の真相】今井・柏原・神野と黒田のタイムは比較できない?
歴代の山の神を語る際に、必ず理解しておきたいのが5区のコース変更です。
「今井正人の1時間18分5秒より黒田朝日の1時間7分16秒のほうが速いから、黒田のほうが圧倒的に強い」といった単純な比較はできません。
理由は、走った距離とコースそのものが違うためです。
2006年と2017年に大きな変更があった箱根駅伝の5区は、歴史の中で複数回距離が変更されています。
特に重要なのは次の3つの時期です。
① 2005年まで:20.9kmのコース
今井正人が2年生だった2005年の第81回大会は、5区の距離が20.9kmでした。
この大会で今井は1時間9分12秒の区間新記録を樹立しています。
② 2006~2016年:23km台のコース
2006年の第82回大会から5区が23.4kmに延長されました。
その後、2015年の第91回大会からは道路の再計測によって23.2kmとなっています。
柏原竜二の4年連続区間賞や、神野大地の2015年の区間新記録は、この長いコースの時代に生まれました。
③ 2017年以降:20.8kmのコース
2017年の第93回大会から5区は20.8kmに短縮されました。
関東学生陸上競技連盟が変更を決定した背景には、選手への身体的負担が大きいこと、5区の結果が総合成績に与える影響が大きすぎることなどがありました。
また、長い上り坂と標高差による気温変化から、低体温症や低血糖症に陥る選手が出ていたことも理由として報じられています。
コース変更の比較表| 時期 | 5区の距離 | 主な選手・出来事 |
|---|---|---|
| 2005年まで | 20.9km | 今井正人が初区間賞 |
| 2006~2014年 | 23.4km | 今井・柏原が活躍 |
| 2015~2016年 | 23.2km | 神野大地が区間新 |
| 2017~2025年 | 20.8km | 現行コースでの記録が蓄積 |
| 2026年 | 20.8km | 黒田朝日が1時間7分16秒 |
※2006年の延長後、2015年には再計測による距離変更がありました。
なぜ歴代記録のランキングに今井・柏原・神野がいない?これは、現在の歴代最速ランキングを見るときに生じやすい疑問です。
今井や柏原、神野は5区で歴史的な走りを見せた選手ですが、現在の20.8kmコースとは距離が異なります。
そのため、旧コースの記録は現在のコースの区間記録ランキングと同じ条件では扱われません。
関東学生陸上競技連盟の公式記録でも、コース変更によって走行距離や経路が大きく変わった場合は、記録を別に取り扱っています。
つまり、黒田の1時間7分16秒が歴代最速として掲載されることと、今井・柏原・神野の功績が小さくなることは別問題です。
むしろ、それぞれの時代のコースでどれほど突出した走りをしたのかを理解することが、正しい歴代比較につながります。
【山の神の正体】公式称号ではない?4代目は誰なのかを検証
「山の神」は箱根駅伝を象徴する言葉ですが、実は大会が定めた公式の称号ではありません。
競技規則上のタイトルや、区間賞とは異なる、実況や報道を通じて広がった呼び名です。
「山の神」という言葉はどこから生まれた?この呼称が広く知られるきっかけになったのは、2007年の第83回大会です。
当時、順天堂大学の今井正人と同じように5区を走った日本体育大学の北村聡が、今井の存在を意識して「山の神」という表現を使ったことが発端として紹介されています。
その後、往路のゴールに現れた今井に対して、日本テレビの河村亮アナウンサーが実況で、
「山の神、ここに降臨。その名は今井正人!」
と表現したことで、全国の駅伝ファンに広まりました。
この経緯は日本テレビの今井正人本人へのインタビューでも紹介されています。
興味深いのは、今井自身が「自分を山の神だと思ったことは一度もありません」と振り返っていることです。
本人の実感とは別に、周囲の驚きや実況の言葉が重なり、象徴的な呼称へと成長していったのです。
では、4代目の山の神は誰?2026年現在、歴代3人の系譜を受け継ぐ存在として最も有力なのは、黒田朝日です。
ただし、黒田は単純に「4代目」と名乗ったわけではありません。
第102回大会のレース後に本人が掲げたのは「シン・山の神」という呼称でした。
この言葉には、従来の山の神を受け継ぐだけではなく、新しい存在としての意味合いも込められています。
原晋監督も「シン」という表現について、「新」「真」「伸」「心」など複数の意味を込めたと説明しています。
したがって、整理すると次のようになります。
- 初代:今井正人
- 2代目:柏原竜二
- 3代目:神野大地
- 新世代:黒田朝日(シン・山の神)
黒田を4代目と呼ぶことは、歴代の流れから見れば自然です。しかし、公式に代数が認定されたわけではありません。
「4代目か、シン・山の神か」という議論そのものが、2026年の箱根駅伝を象徴する新しい話題になっています。
山の神は5区の区間賞を取れば名乗れる?答えは、そうではありません。
5区で区間賞を獲得することはもちろん大きな実績ですが、それだけで山の神と呼ばれるわけではありません。
今井、柏原、神野に共通しているのは、単なる区間順位以上に、箱根駅伝の歴史に残る印象的な走りをしたことです。
山上りという特殊な舞台で、他の選手とは一線を画すパフォーマンスを見せ、チームの順位や大会の流れを変える存在だったことが大きなポイントです。
2026年の黒田も、区間新記録だけではなく、5位から逆転して往路優勝を決めたという結果が高く評価されています。
【プロの結論】歴代の山の神を比較するときに注目すべき3つのポイント
歴代の山の神を比較する場合、単純に区間タイムを並べるだけでは十分ではありません。
専門的に見るなら、次の3つの視点が欠かせません。
1. 記録は同じコース条件で比較する最も重要なのは、5区の距離とコースが同じかどうかです。
旧コースの23.2kmと現行コースの20.8kmでは、走行条件が大きく違います。
単純なタイム差だけで選手の優劣を決めるのではなく、それぞれのコースでの区間順位や区間記録の更新幅を見ることが大切です。
2. 連続区間賞と単年度の記録更新は別の価値がある今井正人の3年連続区間賞、柏原竜二の4年連続区間賞は、継続的な能力の高さを示す実績です。
一方、神野大地の2015年の区間新記録や、黒田朝日の2026年の区間新記録は、その時代の5区の基準を塗り替えた実績です。
どちらが上という単純な話ではありません。
継続性を評価するなら今井や柏原、記録の更新幅と歴史的インパクトを見るなら神野や黒田というように、評価軸を分ける必要があります。
3. チームの順位を動かした影響力にも注目する箱根駅伝は個人競技ではなく、たすきをつなぐ駅伝競技です。
5区でどれほど速く走ったかだけでなく、チームの順位をどう変えたのかも重要です。
今井の追い上げ、柏原の安定した区間賞、神野の青山学院大学の躍進、そして黒田の逆転往路優勝。
それぞれの選手がチームにもたらした価値を含めて評価すると、歴代の山の神の個性がより鮮明になります。
【箱根駅伝の歴代山の神】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:箱根駅伝の歴代山の神は誰ですか?
A1:代表的な歴代3人は、初代・今井正人、2代目・柏原竜二、3代目・神野大地です。2026年には青山学院大学の黒田朝日が「シン・山の神」と呼ばれる存在になりました。
Q2:2026年の黒田朝日は4代目の山の神ですか?
A2:歴代3人の次に位置する存在として、4代目と呼ぶことはできます。ただし、公式な代数の認定はありません。本人と原晋監督が使用した「シン・山の神」という呼称が2026年の象徴になっています。
Q3:箱根駅伝5区の歴代区間記録は何分ですか?
A3:2026年の第102回大会終了時点で、現行20.8kmコースの区間記録は黒田朝日の1時間7分16秒です。2025年の若林宏樹が記録した1時間9分11秒を1分55秒更新しました。
Q4:今井正人は何年連続で区間賞を獲得しましたか?
A4:2005年から2007年まで、5区で3年連続の区間賞を獲得しました。順天堂大学時代の実績が、初代山の神と呼ばれる大きな理由です。
Q5:柏原竜二は何年連続で5区の区間賞を獲得しましたか?
A5:2009年から2012年まで、4年連続で区間賞を獲得しました。大学1年生から4年生まで一度も区間賞を譲らなかったことが、2代目山の神としての象徴的な実績です。
Q6:なぜ神野大地の1時間16分15秒と黒田朝日の記録を比較できないのですか?
A6:神野が走った2015年の5区は23.2km、黒田が走った2026年の5区は20.8kmです。距離やコース条件が異なるため、タイムをそのまま比較することはできません。
箱根駅伝の歴代山の神は、それぞれ異なる時代に圧倒的な走りを見せてきました。
- 初代・今井正人: 2005~2007年の3年連続区間賞。
- 2代目・柏原竜二: 2009~2012年の4年連続区間賞。
- 3代目・神野大地: 2015年に1時間16分15秒の区間新記録。
- 新世代・黒田朝日: 2026年に1時間7分16秒の現行コース区間新記録。
特に第102回大会の黒田朝日の走りは、従来の記録を1分55秒更新する歴史的な快挙でした。
ただし、今井・柏原・神野が走った旧コースと黒田が走った現行コースでは距離が異なります。歴代の選手を公平に評価するには、記録だけでなく、コース条件や連続区間賞、チームへの貢献度も考慮する必要があります。
「山の神」は公式に与えられる称号ではなく、選手の努力と驚異的な走りが生み出してきた特別な呼び名です。
2026年に黒田朝日が「シン・山の神」と名乗ったことで、その歴史には新たなページが加わりました。次の箱根駅伝で、この記録に挑む選手が現れるのか。5区の山上りは、これからも箱根駅伝最大の見どころの一つであり続けます。