富士山噴火の可能性を考える際、特に混同されやすいのが「通常の地震」と「火山性地震」です。どちらも地震計に揺れとして記録されますが、発生する原因や観測波形、火山活動との関係は異なります。
通常の地震と火山性地震を比較通常の地震は、プレート同士の相互作用や断層運動によって岩盤が破壊されることで発生します。一方、火山性地震は、マグマや火山ガス、地下の熱水などの活動に関連して火山体やその周辺で発生します。
気象庁や地震調査研究推進本部が整理している主な違いは次のとおりです。
特に注意したいのは、火山の近くで発生した地震が、すべて火山性地震というわけではないことです。火山の周辺でもプレート運動や断層運動による通常の地震は発生します。
今回の山梨県東部・富士五湖地震についても、地震本部は逆断層型の地震と評価し、フィリピン海プレートと陸のプレートの衝突に起因する活動と説明しています。
深部低周波地震とは何か富士山の観測で注目される現象の一つが、深部低周波地震です。
気象庁によると、深部低周波地震は、一般的な地震と比べて周期の長い地震波を伴い、富士山では深さ約10~20km付近で観測されるタイプの地震です。地下深部のマグマなどの流体活動との関連が考えられています。
ただし、深部低周波地震の発生原因には解明されていない部分があります。プレート境界付近でも低周波地震が発生するため、深さや周期だけで噴火との関係を決めることはできません。
また、浅い低周波地震と深部低周波地震も区別する必要があります。火口周辺の浅い低周波地震は、火道内のガスの移動やマグマの発泡などによって発生する場合があると考えられています。
富士山では2000年10~12月と2001年4~5月に深部低周波地震が多発しました。この活動は当時、火山活動の変化を把握するうえで大きな注目を集めました。
しかし、深部低周波地震が発生したからといって、必ず噴火するわけではありません。発生回数の推移だけでなく、ほかの観測データとの組み合わせが必要です。
2026年9月の気象庁資料では、富士山の火山性微動や浅部の低周波地震は観測されていません。この点も、今回の地震を直ちに噴火の前兆と判断できない理由の一つです。
【噴火の前兆と予知】富士山が噴火する前に何が起きるのか

富士山の噴火を考えるうえで、最も重要なのが地下のマグマの動きです。
富士山は、地下から供給されるマグマによって形成された成層火山です。地下深部からマグマが上昇すると、周辺の岩盤に圧力がかかり、地震活動や地殻変動などに変化が現れる可能性があります。
ただし、噴火に至る経路や前兆の現れ方は毎回同じではありません。観測された変化が必ず噴火につながるわけでもありません。
富士山噴火の前兆として注目される5つの現象1.火山性地震の増加
火山体内部や周辺で地震が増える現象です。特に震源の位置や深さ、波形の変化、発生頻度の推移が注目されます。短期間に急増した場合でも、ほかの観測結果と合わせた評価が必要です。
2.地殻変動による山体の膨張
マグマが地下に移動すると、周囲の岩盤が押されて山体が膨張する場合があります。GNSSや傾斜計、ひずみ計などを使って地面のわずかな動きを捉えます。
3.火山性微動の発生
火山性微動は、通常の地震より長い時間続く振動です。地下のマグマや火山ガス、熱水などの流体の移動に関係していると考えられています。
4.噴煙・噴気の変化
火口からの噴煙や噴気の状態、温度などに変化が現れる場合があります。気象庁は監視カメラなどを使って火山の表面現象を観測しています。
5.火山ガスや地下の温度変化
火山ガスの放出量や地下の熱的状態に変化が起きることも、火山活動を評価する材料です。地震活動や地殻変動などと合わせて判断します。
これらの現象は、単独で噴火を確定するものではありません。複数の観測項目に共通した変化が現れているかどうかが重要です。
富士山噴火の予知はどこまで可能なのか富士山は気象庁による常時観測火山であり、24時間体制で火山活動が監視されています。気象庁だけでなく、大学や研究機関なども観測に参加しています。
しかし、現在の科学技術では、富士山が「何月何日の何時に、どの火口から噴火する」と正確に予測することはできません。
山梨県が公開している富士山ハザードマップ関連の解説資料でも、噴火の日時や場所を事前に特定することは難しいと説明されています。
富士山には、1707年の宝永噴火以降、近代的な観測機器によって噴火開始前から終了までの一連の活動を記録できた実績がありません。そのため、実際の噴火過程を観測データから検証する機会が限られています。
加えて、富士山は複数の火口が存在する火山であり、次の噴火でどこに新しい火口が形成されるかも事前には分かりません。
したがって、噴火予知に過度な期待を寄せるのではなく、気象庁の火山情報と自治体の防災情報を継続的に確認することが現実的な対応です。
【噴火したらどうなる?】富士山火山ハザードマップと降灰・避難計画
富士山の噴火で想定される被害は、火口周辺だけに限りません。溶岩流や火砕流、噴石、火山泥流などの直接的な被害に加え、広範囲に広がる火山灰も大きな問題になります。
特に首都圏では、火山灰が交通機関や電力、水道、通信などの社会インフラに影響を与える可能性があります。
2021年改定の富士山火山ハザードマップ富士山火山ハザードマップは、富士山が噴火した場合に、どの地域でどのような火山現象の影響が想定されるかを地図上に示したものです。
2004年に作成されたマップは、その後の研究成果やシミュレーションなどを踏まえて、2021年3月に改定されました。
改定版では、従来よりも想定火口範囲や溶岩流の到達範囲などが見直されています。山梨県と静岡県を中心に、周辺自治体の防災マップや避難計画にも活用されています。
主な想定現象は次のとおりです。
- 大きな噴石:火口から飛散する岩石による被害。
- 火砕流:高温の火山ガスや火山灰などが高速で流れ下る現象。
- 溶岩流:噴出した溶岩が地表を流れ下る現象。
- 降灰:火山灰が風に運ばれて広範囲に堆積する現象。
- 融雪型火山泥流:噴火によって雪が融け、水や土砂が流れ下る現象。
- 降灰後の土石流:火山灰が積もった斜面で雨が降り、土砂が流出する現象。
注意したいのは、ハザードマップが実際の噴火口や被害範囲を確定的に示すものではないことです。噴火口の位置、噴火規模、風向き、降雨などによって被害の範囲は変わります。
富士山噴火による降灰は東京まで届く?過去の宝永噴火では、火山灰が富士山の東側に広がり、江戸や房総半島周辺にも降り積もりました。
気象庁の検討資料に掲載された過去の降灰実績では、富士山から約10km離れた静岡県小山町で約300cm、約50km離れた神奈川県伊勢原市で約30cm、約120km離れた千葉県市原市で約8cmの降灰が記録されています。
これは1707年の実績であり、将来の噴火で同じ厚さの灰が同じ場所に降るという意味ではありません。しかし、富士山の降灰が遠方まで及ぶことを示す重要な歴史資料です。
東京都が公開する「Tokyo富士山降灰特設サイト」では、首都圏への影響を検討したモデルケースも紹介されています。
最大の影響が生じるモデルケースでは、多摩地域をはじめ、東京23区の大部分で2~10cm程度以上の降灰が想定されています。
この数値は、特定の風向きや噴火条件を設定した検討用のシミュレーションです。将来の噴火で必ず同じ降灰が発生するという予測ではありません。
それでも、東京都内で大量の火山灰が積もる可能性を考えると、富士山から離れた地域に住む人も無関係ではありません。
火山灰によって交通やライフラインに起きる問題火山灰は、見た目には単なる砂や粉じんに見えますが、交通機関や電力設備などにさまざまな障害をもたらします。
東京都の防災資料では、次のような影響が整理されています。
- 鉄道:わずかな降灰でも地上路線の運行停止につながる可能性がある。
- 道路:視界の悪化や路面への灰の堆積によって車両の走行が困難になる。
- 航空:火山灰がエンジンや機体に影響するため、航空機の迂回や運航停止が必要になる。
- 電力:降雨を伴う降灰によって電線設備の絶縁性能が低下し、停電する可能性がある。
- 水道:河川や浄水場への灰の流入によって、水質管理や給水に支障が出る可能性がある。
特に注意したいのは、火山灰の影響が噴火中だけで終わらないことです。降灰後の除灰作業や交通網の復旧、農地や河川の管理など、長期的な対応が必要になる場合があります。
富士山噴火時の避難計画と家庭での備え富士山周辺では、山梨県、静岡県、神奈川県、関係市町村、国の機関などが参加する富士山火山防災対策協議会によって、2023年3月に「富士山火山避難基本計画」が策定されました。
この計画では、噴火現象ごとに影響が想定される範囲を設定し、火口形成、大きな噴石、火砕流、溶岩流、融雪型火山泥流、降灰、降灰後の土石流などに応じた避難対策を整理しています。
2025年には計画の改定も進められ、2026年7月には富士山火山防災対策協議会で降灰対策に関する作業部会・検討委員会の設置が議題となりました。広域降灰への備えも継続的に検討されています。
家庭で準備しておきたいものは以下のとおりです。
富士山噴火に備える防災チェックリスト
{@body const items = ["自宅や職場が火山ハザードマップのどの区域にあるか確認する","自治体が指定する避難場所と避難経路を把握する","飲料水・食料・日用品を最低3日分、可能なら7日分以上備蓄する","防じんマスクや目を保護するゴーグルを用意する","懐中電灯・携帯ラジオ・モバイルバッテリーを準備する","家族との連絡方法や集合場所を決める","気象庁と自治体の防災情報を確認する"]}
{@body const [checked,setChecked] = DIL.useState()}
{checked.length}/{items.length} 項目確認済み
{#each items as item,i}
setChecked(old=>v?[...old,i]:old.filter(x=>x!==i))}>{item}
{/each}
火山灰が降っているときは、可能な限り外出を避けて屋内にとどまり、窓やドアを閉めて灰の侵入を防ぐことが基本です。外出が必要な場合は、マスクやゴーグルなどで呼吸器と目を保護します。
一方、火口周辺や溶岩流などの危険区域では、屋内にとどまることが安全とは限りません。噴火警報や自治体の避難指示に従い、指定された安全な場所へ移動する必要があります。
重要なのは、自宅の位置によって適切な行動が異なることです。ハザードマップを確認し、噴火時に自分がどのような行動を取るべきか、平常時から決めておきましょう。
【富士山噴火地震】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年6月26日の震度6弱地震は富士山噴火の前兆ですか?
A1:現時点で、噴火との直接的な関連を示す科学的根拠は確認されていません。地震本部は今回の地震を逆断層型と評価し、フィリピン海プレートと陸のプレートの衝突に起因する活動と説明しています。山梨県も2026年7月1日に関連情報への注意喚起を公表しています。
Q2:2026年11月現在、富士山が噴火する可能性は高まっていますか?
A2:11月2日現在、気象庁の富士山の噴火予報は噴火警戒レベル1です。最新の月別資料である2026年9月の火山活動解説資料でも、火山活動に特段の変化はなく、噴火の兆候は認められていません。ただし、レベル1は将来の噴火を否定するものではありません。
Q3:富士山噴火の前兆として最も重要なものは何ですか?
A3:火山性地震の増加、深部低周波地震、地殻変動、火山性微動、噴煙や火山ガスの変化などです。一つの現象だけでなく、複数の観測データを総合的に判断が必要です。
Q4:富士山噴火の火山灰は東京や神奈川まで届きますか?
A4:届く可能性があります。1707年の宝永噴火では江戸や房総半島周辺でも降灰が記録されています。実際の降灰範囲や厚さは噴火規模や風向きなどによって変わります。
Q5:富士山噴火は事前に予知できますか?
A5:火山活動の変化を観測して警戒情報を発表することはできますが、噴火する日時や火口の位置を正確に予測することはできません。気象庁の観測情報と自治体の避難情報を確認することが大切です。
Q6:噴火警戒レベル1なら富士山周辺は安全ですか?
A6:レベル1は「活火山であることに留意」という段階です。特別な警戒規制が必要な状況ではないという意味ですが、地震や噴火の可能性が完全になくなったわけではありません。登山や観光の際も最新の情報を確認してください。
2026年6月26日に発生した山梨県東部・富士五湖地震は、マグニチュード5.6、最大震度6弱という強い地震でした。富士山に近い地域で発生したことから噴火との関係が注目されましたが、地震調査研究推進本部の評価では、プレート運動に関連する逆断層型の地震とされています。
山梨県も地震と富士山噴火を結びつける科学的根拠は確認されていないと発表しました。加えて、気象庁の2026年9月の観測資料では火山活動に特段の変化はなく、11月2日現在の噴火警戒レベルも1です。
【プロの結論】注目すべきは地震の大きさより、火山活動の総合的な変化富士山噴火と地震の関係を考えるとき、最も避けたいのは「大きな地震が起きたから、次は噴火する」という単純な判断です。
1707年の宝永地震と宝永噴火のように、巨大地震の後に火山噴火が起きた歴史は確かにあります。しかし、その一例だけで現代の地震と噴火の発生時期を結びつけることはできません。
本当に注目すべきなのは、火山性地震の震源分布、深部低周波地震の変化、山体の膨張、火山ガス、噴煙などが同時にどのような変化を示しているかです。これらの観測情報を組み合わせて初めて、火山活動の評価が可能になります。
そして、富士山の噴火に備えるうえでは、予知情報を待つだけでは不十分です。ハザードマップの確認、避難場所の把握、火山灰への備え、家族との連絡方法の共有など、今できる準備があります。
2026年11月現在、6月26日の地震を富士山噴火の前兆と判断する根拠はありません。しかし、富士山が活火山であるという事実は変わりません。 不安をあおる情報ではなく、気象庁、地震調査研究推進本部、山梨県や静岡県などの公的情報を判断の基準にし、冷静に備えることが大切です。