2026年の長塚京三は、映画出演に加え、過去の出演作を振り返る上映イベントにも登場している。単に過去の名作で知られるベテラン俳優ではなく、新しい監督や作品との出会いを重ねている点が現在の大きな特徴だ。
濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』に出演2026年6月19日公開
2026年の注目作が、濱口竜介監督の映画『急に具合が悪くなる』だ。
本作は、哲学者・宮野真生子と人類学者・磯野真穂による同名の往復書簡集を原作とするフランス・日本・ドイツ・ベルギーの国際共同製作映画。2026年6月19日に日本で公開された。
主演はフランスの俳優ヴィルジニー・エフィラと、岡本多緒(TAO)。長塚は、物語の中で重要な役割を担う俳優・清宮吾朗を演じている。
この役は、主人公の森崎真理が演出する舞台に登場する人物で、イタリアの精神医療改革を主導した実在の人物フランコ・バザーリアを演じる俳優という設定だ。
注目したいのは、長塚が本作でフランス語による演技にも挑戦していることだ。
2026年6月の朝日新聞のインタビューでは、フランス留学から半世紀以上が経過した後、改めてフランス語を学び直した経験を語っている。フランスで俳優を目指した時期もある本人にとって、フランスの観客を前にフランス語で演技することは、夢がかなったような経験だったという。
2026年9月には上映イベントにも登場2026年9月12日には、映画『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』の上映後に開催されたトークイベントに登壇した。
松竹シネマクラシックスが9月18日に公開したイベントレポートによれば、映画評論家の石飛徳樹を聞き手に、篠田正浩監督との出会いや撮影当時の思い出、近年の出演作について語った。
特に興味深いのは、81歳を迎えた自身の変化についての発言だ。
「ぼちぼち老け役をやってみようかな」
長塚は、これまで実年齢よりも子供っぽい生き方をしてきたと振り返り、81歳になった前後で精神年齢が実年齢に追いついたような感覚があると話した。
加えて、好きな仕事だから苦労とは感じず、楽しい思い出ばかりだとも語っている。
この発言から見えてくるのは、年齢を理由に活動を縮小するのではなく、新しい役柄を受け入れていこうとする姿勢だ。
【映画『敵』】12年ぶりの主演で日本アカデミー賞を受賞!

長塚京三の2020年代のキャリアを語るうえで欠かせない作品が、吉田大八監督の映画『敵』である。
2025年1月17日に劇場公開された本作は、筒井康隆の同名小説を原作とするモノクロ映画だ。
長塚にとっては、2013年公開の『ぼくたちの家族』以来、12年ぶりとなる映画主演作だった。俳優デビューから50年を迎える時期に、再び作品の中心を担うことになった。
長塚京三が演じた渡辺儀助とは?主人公は、大学教授を退職した77歳の元大学教授・渡辺儀助。
妻に先立たれ、都内の古い日本家屋で一人暮らしをしている。料理を自分で作り、食事やお金の管理、日々の生活を几帳面に整えながら、残された人生を静かに過ごしている。
ところが、ある日パソコンに「敵がやって来る」という不穏なメッセージが表示される。
それを境に、主人公の平穏な日常は少しずつ変化していく。
本作の特徴は、単純な善悪の対立を描くのではなく、老い、孤独、欲望、記憶、現実と夢の境界を丁寧に描いていることだ。
長塚は、知性と品格を感じさせる人物像だけでなく、内面に潜む不安や欲望まで表現し、物語を一人で牽引する演技を披露した。
『敵』の主な受賞歴本作は国内外の映画祭で高く評価された。
| 賞・評価 | 年 | 結果 |
|---|---|---|
| 第37回東京国際映画祭 | 2024年 | 最優秀男優賞 |
| 第37回東京国際映画祭 | 2024年 | 東京グランプリ受賞作品 |
| 第49回日本アカデミー賞 | 2026年 | 優秀主演男優賞 |
| 第68回ブルーリボン賞 | 2026年 | 主演男優賞 |
東京国際映画祭では、長塚の最優秀男優賞に加え、吉田大八監督の最優秀監督賞、東京グランプリも獲得。3冠という結果を残した。
日本アカデミー賞では「優秀主演男優賞」2026年3月13日に開催された第49回日本アカデミー賞では、『敵』によって優秀主演男優賞に選ばれた。
ここで押さえておきたいのは、優秀主演男優賞と最優秀主演男優賞は異なるという点だ。
長塚が受賞したのは優秀主演男優賞。最優秀主演男優賞は『国宝』の吉沢亮が受賞している。
この違いを理解しておけば、長塚の受賞歴を正確に把握できる。
また、1998年の第21回日本アカデミー賞でも、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』で優秀主演男優賞を受賞している。
約28年の時を経て、同じ主演男優賞の優秀賞に再び名を連ねたことは、長い俳優人生を振り返るうえでも印象的な出来事だ。
【若い頃の長塚京三】早稲田大学からフランス留学、俳優デビューまで
長塚京三の経歴には、一般的な日本の俳優とは少し異なる特徴がある。
それは、俳優として本格的に活動する前にフランスへ渡り、現地で映画デビューを果たしたことだ。
早稲田大学で演劇に触れる長塚は東京都出身。早稲田大学第一文学部演劇科に進学した。
学生時代は演劇サークルで活動し、舞台の裏方なども経験したという。
本人が2023年に公開された『公研』のインタビューで語ったところによれば、大学では演劇サークルに夢中になり、録音や音響、大道具などの仕事にも携わっていた。
しかし、当時の大学紛争によって大学がロックアウトされ、活動場所を失ったことなどをきっかけに中退を決意する。
そして向かった先がフランスだった。
フランス留学とソルボンヌ大学での学び1969年、長塚はフランスへ渡り、パリのソルボンヌ大学で学んだ。
フランス文学や演劇史などに触れながら、現地での生活を経験。語学の習得にも取り組んだ。
本人は当時について、日本以外の遠い場所へ行きたいという気持ちが強かったと振り返っている。
また、フランス滞在中にはアルジェリアで日本人技術者と現地の関係者との間に立つ通訳のアルバイトを経験したこともある。
このような経験は、後の俳優活動においても興味深い背景となっている。
1974年、フランス映画『パリの中国人』でデビュー長塚の人生を大きく変えたのが、1974年のフランス映画『パリの中国人』への出演だった。
フランス語の教師を通じてオーディションの話が舞い込み、出演が決定。映画の主要な役を務め、俳優としてスクリーンデビューを果たした。
本人のインタビューによると、当初は俳優になることを強く志していたわけではなかったという。
映画出演を一つの経験として受け止め、別の職業に就くことも考えていた。
しかし、帰国後に出演したTBSドラマ『樹氷』をきっかけに、日本での俳優活動が本格化していく。
つまり、長塚の俳優人生は、日本で俳優を目指して養成所に入るという一般的な経路ではなく、フランスでの偶然の映画出演から始まったのである。
【長塚京三の代表作・経歴】映画とドラマで築いた50年以上のキャリア
長塚京三の魅力は、映画だけでなくテレビドラマでも幅広い役柄を演じてきたことにある。
特に、知的で落ち着いた大人の男性、頼りがいのある上司、社会的地位のある人物などの役柄で親しまれてきた。
一方で、家庭内の葛藤を抱える父親や、孤独と不安に向き合う人物など、単純な理想像ではない役にも挑戦している。
長塚京三の年代別キャリア年表| 時期 | 出来事・作品 | キャリア上の意味 |
|---|---|---|
| 1969年 | フランス留学 | ソルボンヌ大学で学ぶ |
| 1974年 | 『パリの中国人』 | フランス映画でデビュー |
| 1974年 | ドラマ『樹氷』 | 日本での俳優活動を開始 |
| 1980年代 | 『金曜日の妻たちへ』シリーズ | テレビドラマで知名度を高める |
| 1992年 | 『ザ・中学教師』『ひき逃げファミリー』 | 映画で主演男優として評価 |
| 1997年 | 『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』『理想の上司』 | 映画賞とテレビドラマで存在感 |
| 2008年 | NHK大河ドラマ『篤姫』 | 大河ドラマでも活躍 |
| 2012~2014年 | 『臨場 劇場版』『ぼくたちの家族』など | 映画で幅広い役柄を担当 |
| 2024年 | 『お終活 再春!人生ラプソディ』 | 映画デビュー50周年 |
| 2025年 | 『敵』『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』 | 12年ぶりの映画主演 |
| 2026年 | 『急に具合が悪くなる』 | 濱口竜介監督作に出演 |
『金曜日の妻たちへ』シリーズ
1980年代の人気ドラマシリーズ。長塚は当時のテレビドラマ界で存在感を高め、知的で大人の雰囲気を持つ俳優として知られるようになった。
『理想の上司』(1997年)
長塚のテレビドラマを語る際に外せない作品だ。
海外赴任から帰国した支店長代理・坂本時雄を演じた。部下を単純に切り捨てず、一人ひとりの可能性を見つめる上司像が描かれた。
この作品は、長塚が「理想の上司」というイメージで親しまれるようになった代表的なきっかけの一つである。
『ナースのお仕事』シリーズ
病院を舞台とする人気ドラマシリーズにも出演。医療現場を取り巻く人間関係や職場の雰囲気を描く作品の中で、幅広い視聴者に親しまれた。
NHK大河ドラマ『篤姫』(2008年)
大河ドラマにも出演し、歴史上の人物を演じた。『独眼竜政宗』などを含め、NHK大河ドラマへの出演は計7作品に及ぶ。
映画の代表作映画では、以下の作品も代表的だ。
- 『ザ・中学教師』(1992年):長塚が映画で初主演を務めた作品。
- 『ひき逃げファミリー』(1992年):同年の主演作とともに毎日映画コンクールで評価された。
- 『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(1997年):篠田正浩監督作。日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した作品。
- 『笑う蛙』(2002年):映画俳優としての多彩な演技を示した作品。
- 『長い長い殺人』(2008年):宮部みゆき原作のミステリー作品。
- 『ぼくたちの家族』(2014年):家族の問題と向き合う父親を演じた。
- 『お終活 再春!人生ラプソディ』(2024年):人生の後半を考えるシニア世代を描いた作品。
- 『敵』(2025年):12年ぶりの映画主演作。
これらの作品を年代順に見ると、長塚の俳優人生は一つのイメージに固定されていないことが分かる。
知的な人物から家庭を抱える父親、孤独な老人まで、年齢や時代に応じて役柄の幅を広げてきた。
【長塚京三の受賞歴】日本アカデミー賞だけではない評価の軌跡
長塚京三は、長年にわたって映画界から評価を受けてきた俳優だ。
特に、1990年代の主演映画での受賞と、2024年以降の『敵』による再評価は重要な転換点になっている。
主な受賞歴| 年 | 賞 | 対象作品・内容 |
|---|---|---|
| 1993年 | 第47回毎日映画コンクール男優主演賞 | 『ザ・中学教師』『ひき逃げファミリー』 |
| 1998年 | 第21回日本アカデミー賞優秀主演男優賞 | 『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』 |
| 2003年 | 第24回ヨコハマ映画祭主演男優賞 | 『笑う蛙』 |
| 2024年 | 第37回東京国際映画祭最優秀男優賞 | 『敵』 |
| 2026年 | 第49回日本アカデミー賞優秀主演男優賞 | 『敵』 |
1992年の『ザ・中学教師』などで主演男優として評価され、翌年には毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。
1997年公開の『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』でも主演を務め、日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を獲得した。
当時から、テレビで親しまれる俳優というだけでなく、映画作品を背負う主演俳優としての実績を築いていた。
2024年以降の再評価が持つ意味『敵』での東京国際映画祭最優秀男優賞は、79歳での受賞だった。
そして2026年には81歳で再び日本アカデミー賞の優秀主演男優賞に選出された。
これは単なる懐古的な評価ではない。現在の映画作品における演技が評価された結果だ。
特に『敵』と『急に具合が悪くなる』は、異なる監督の作品でありながら、どちらも人物の内面や人間の存在を深く描こうとする作品である。
長塚の知的な雰囲気、フランス語の素養、年齢を重ねた表現力が、こうした作品との相性を生み出している。
【プロの結論】長塚京三が81歳でも求められる理由とは?
長塚京三の現在を考えるうえで、注目すべきなのは年齢そのものではなく、年齢を重ねたことで演じられる役柄が変化していることだ。
1. フランス留学が現在の仕事にも生きている長塚のフランス留学は、単なる若い頃の海外経験ではない。
2026年の『急に具合が悪くなる』では、フランス語で演技する機会につながった。
半世紀以上前の経験が、現在の国際共同製作映画で新しい役柄を演じるための土台になっている。
2. 理想の上司から孤独な老人まで、役柄を更新しているかつての長塚は、知的で頼りがいのある大人の男性という印象が強かった。
しかし『敵』では、老後の生活や孤独、死への意識に向き合う人物を演じている。
過去のイメージを守るだけでなく、観客が予想していなかった人物像を表現できることが、長く活躍する理由の一つだ。
3. 若い監督との出会いが新しい表現を生んでいる吉田大八監督の『敵』と、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』は、作風も物語も異なる。
それぞれの監督が求める演技に向き合うことで、長塚は新たな表現に挑戦している。
松竹シネマクラシックスの2026年9月のイベントレポートでは、濱口監督の本読みについて、台本に書かれた言葉を余計な感情や演出意図を加えず、忠実に声にする作業として説明していた。
こうした制作現場での取り組みからも、経験豊富な俳優でありながら、演技について学び続ける姿勢がうかがえる。
長塚京三の魅力は、完成された俳優でありながら、新しい自分に出会うことをやめていない点にある。
81歳という年齢はキャリアの終着点ではなく、これまで積み重ねてきた経験を別の形で表現する新しい段階なのかもしれない。
【長塚京三に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:長塚京三の生年月日と2026年現在の年齢は?
1945年7月6日生まれ。2026年11月1日現在、81歳です。東京都出身の俳優です。
Q2:長塚京三はフランスのソルボンヌ大学に留学していた?
はい。1969年にフランスへ渡り、ソルボンヌ大学でフランス文学などを学びました。1974年にはフランス映画『パリの中国人』で俳優デビューしています。
Q3:映画『敵』で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞した?
正確には、2026年の第49回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞しています。最優秀主演男優賞は『国宝』の吉沢亮です。
Q4:濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』で長塚京三は主演?
主演ではありません。ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が主演し、長塚は劇中の舞台に出演する俳優・清宮吾朗を演じています。2026年6月19日に公開されました。
Q5:長塚京三の代表作は何?
テレビドラマでは『金曜日の妻たちへ』『理想の上司』『ナースのお仕事』『篤姫』など。映画では『ザ・中学教師』『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』『ぼくたちの家族』『敵』などが代表作として挙げられます。
長塚京三は1945年7月6日生まれ、2026年現在81歳。早稲田大学からフランスへ渡り、ソルボンヌ大学で学んだ後、1974年にフランス映画『パリの中国人』で俳優デビューした。
日本では『金曜日の妻たちへ』『理想の上司』『ナースのお仕事』『篤姫』などのテレビドラマで親しまれ、映画でも『ザ・中学教師』『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』などの作品で高い評価を得てきた。
そして2025年公開の『敵』では12年ぶりの映画主演を務め、東京国際映画祭最優秀男優賞と第49回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。
2026年には濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』にも出演し、フランス語での演技という新しい挑戦も実現させている。
長塚京三のキャリアを追うと、俳優として長く活躍するために必要なのは、過去の成功を繰り返すことではなく、年齢や経験に応じて新しい表現を受け入れることだと分かる。
81歳になった今も、長塚京三は過去の代表作だけで語り尽くせない俳優である。今後どのような作品で新しい顔を見せてくれるのか、引き続き注目したい。