競馬中継や競馬新聞で目にする「馬の調教」。坂路で力強く駆け上がる姿や、レース直前に行われる追い切りのタイムは、競走馬の能力や仕上がりを判断するうえで欠かせない情報です。しかし、馬は毎日全力で走っているわけではありません。基礎体力を養う運動、筋力を鍛えるトレーニング、レースを想定した実践的な練習、疲労を回復させるための軽い運動など、目的に応じて細かく調教メニューが組まれています。
2026年11月現在、JRAの美浦・栗東トレーニングセンターでは、坂路やウッドチップ、ダート、芝など複数の調教施設を活用し、競走馬ごとの能力や体調に合わせたトレーニングが行われています。この記事では、競走馬の育成過程から調教の目的と仕組み、坂路調教とウッドチップ調教の違い、調教助手の役割、調教時計の見方、馬の調子を判断するポイント、費用までを具体的に解説します。
【基本知識】馬の調教とは何をするのか?目的と仕組みをわかりやすく解説

馬の調教とは、人が馬に運動や動作を教えながら、競走や乗馬など、それぞれの目的に必要な身体能力と精神面を育てることです。競走馬の場合は、決められた距離を速く、安定して走り切るための身体づくりが中心になります。
ただし、競走馬の調教は単純な走り込みではありません。人間のアスリートと同じように、運動強度や休養、栄養管理を組み合わせ、馬の成長やコンディションに応じて内容を調整します。
馬の調教で鍛える5つの能力1.持久力
レースの距離を最後まで走り切るための基礎能力です。一定のペースで長く運動することで、スタミナを養います。長距離戦を目指す馬と短距離戦を目指す馬では、求められる能力のバランスも異なります。
2.筋力と瞬発力
スタート直後の加速や、最後の直線で他馬を追い抜くための能力です。坂路や強度を調整した走り込みなどを活用して、後肢を中心とする筋力や推進力を鍛えます。
3.心肺機能
運動中に酸素を取り込み、全身へ供給する能力です。負荷を適切に調整しながら運動を継続することで、レースに必要な運動能力を高めます。
4.バランスと走行技術
コーナーを曲がる、一定のリズムで走る、騎手の指示に反応するといった能力です。トラック型の調教コースや併せ馬などを通じて、競走に必要な動きを身につけます。
5.精神面と人への反応
馬は周囲の環境や音、ほかの馬の動きに敏感な動物です。人の指示を理解し、ほかの馬が近くにいても落ち着いて走れるよう、日々の取り扱いや運動を通して慣らしていきます。
調教は全力疾走だけではない競走馬の調教というと、速いスピードで走る姿を想像しがちですが、実際には常歩(なみあし)や速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)など、運動の強さを段階的に変えます。
調教前にはウォーミングアップを行い、筋肉や関節を動かして身体を準備させます。運動後はクーリングダウンを実施し、呼吸や身体の状態を落ち着かせてから厩舎へ戻ります。
JRAの栗東トレーニングセンターが公開している2025年版施設資料でも、調教は速く走らせることだけではなく、ゆっくり運動して体調を整えることや、人の指示に従うよう教えることも含まれると説明されています。
つまり、馬の調教の本質は、強い負荷をかけることではなく、必要な能力を適切な負荷で育て、次の運動に向けて回復させることにあります。
【育成過程】競走馬はいつから調教を始める?デビューまでの成長段階
競走馬の育成は、競馬場やトレーニングセンターに入ってから突然始まるものではありません。生まれた直後から牧場で成長し、基礎体力をつけ、人間との関係を築きながら、少しずつ競走馬としての準備を進めていきます。
誕生から1歳秋まで:放牧と基礎体力づくり生まれたばかりの仔馬は、まず母馬と過ごしながら成長します。牧場では放牧によって自然に身体を動かし、草を食べ、骨格や筋肉を発達させていきます。
この時期に大切なのは、無理に速く走らせることではありません。身体が成長するための栄養と運動環境を整え、健康な状態を維持することです。
JRA日高育成牧場の公開資料によると、JRA育成馬は1歳の夏から秋にかけて入厩し、昼夜放牧などを通して基礎体力を養います。
1歳秋から2歳春:騎乗馴致と本格的な育成調教成長が進むと、競走馬として人を乗せるための準備に入ります。この段階で行われるのが騎乗馴致(じょうじょうじゅんち)です。
JRA日高育成牧場では、調馬索を使った運動やランジング、ドライビングなどを取り入れ、人と馬のコミュニケーションを築いてから騎乗へ進みます。
具体的には、次のような順番で進められます。
- 人に触れられることや馬具を装着することに慣れる。
- 調馬索などを利用して人の指示に反応する練習をする。
- 背中に人を乗せることに慣れる。
- 常歩や速歩など、基本的な運動を覚える。
- 馬場での騎乗運動や坂路などを利用して体力を養う。
- ゲート練習など、競走に必要な動作を習得する。
JRA日高育成牧場では、1歳秋から2歳春にかけての時期を基礎体力づくりの重要な段階として位置づけています。冬季でも運動できる屋内施設を活用しながら、馬の成長に合わせた調教が進められています。
2歳以降:トレーニングセンターで競走に向けた調整育成牧場でのトレーニングを経た馬は、競走馬としてのデビューを目指して調教を重ねます。JRAの場合、主な調教拠点は茨城県の美浦トレーニングセンターと滋賀県の栗東トレーニングセンターです。
ここでは、馬の能力や目標とするレースに合わせて、調教師がトレーニングメニューを決定します。デビュー前にはゲート練習や走行練習を重ね、レースに必要な動作を身につけます。
デビュー後も調教は続きます。レースに出走するための仕上げだけでなく、出走後の疲労回復、次走に向けた体力維持、休養後の再調整など、競走生活を通じて内容が変化します。
このように、競走馬の育成過程は、放牧による成長、騎乗馴致、基礎トレーニング、実践的な調教という段階を踏んで進みます。
【徹底比較】坂路調教とウッドチップ調教は何が違う?コースの特徴と使い分け
競馬新聞や調教映像で頻繁に登場するのが、坂路調教とウッドチップ調教です。どちらも競走馬の能力を高めるために利用されますが、両者の違いを理解するには、コースの形状と馬場の素材を分けて考える必要があります。
坂路はコースの形状、ウッドチップは走路に使われる素材を表す言葉です。つまり、坂路コース自体がウッドチップでできている場合もあります。
坂路調教:傾斜を利用して筋力と心肺機能を鍛える坂路調教は、傾斜のある直線コースを馬が駆け上がるトレーニングです。平地とは異なる負荷がかかるため、比較的低い速度でも強い運動効果を得られます。
JRAの競馬用語辞典では、坂路コースは平坦なコースと比べてスピードが遅くても運動負荷をかけられ、脚にかかる負担を減らせることがメリットとして紹介されています。また、反復調教によって心肺機能や後肢の鍛錬にもつながります。
坂路調教の主な目的は次のとおりです。
- 後肢を中心とする筋力の強化。
- 心肺機能と持久力の向上。
- 短時間で効率よく運動負荷をかけること。
- 平地とは異なる負荷を与えて身体能力を高めること。
美浦トレーニングセンターの坂路コースは、2023年10月に改造工事を終えた新コースがオープンしました。全長1,200メートル、計測可能距離800メートル、高低差33メートルという規模です。
一方、栗東トレーニングセンターの2025年版施設資料では、坂路コースは全長1,085メートル、ウッドチップ素材とされています。
ウッドチップ調教:クッション性を生かした走り込みウッドチップ調教は、木材を細かく加工した素材を敷いた走路で行うトレーニングです。
栗東トレーニングセンターの資料によると、使用されているウッドチップの材料はアカマツとスギです。クッション性と排水性に優れ、天候による馬場状態の変化が比較的少ない特徴があります。
平地のウッドチップコースでは、トラック型の走路を利用することでコーナリングを含む走行練習もできます。脚元への負担に配慮しながら、一定の距離を走り込むために活用されます。
ただし、ウッドチップは万能ではありません。美浦トレーニングセンターの施設案内では、表面に凹凸ができやすく、滑りやすいという注意点も挙げられています。
坂路・ウッドチップ・ダート・芝の比較| 調教環境 | 構造・素材 | 主な目的 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 坂路 | 傾斜のある走路。ウッドチップが一般的 | 筋力、後肢、心肺機能の強化 | 低い速度でも負荷をかけやすい。コーナリング練習には向かない |
| 平地ウッドチップ | アカマツやスギなどの木材チップ | 持久力、走行能力、コーナリング | クッション性と排水性に優れる。表面の凹凸や滑りに注意 |
| ダート | 砂や土を使用した走路 | 基礎体力、走行能力の強化 | 天候によって馬場状態が変化する |
| 芝 | 芝生の走路 | 芝コースへの適応、走行練習 | 実際の競馬に近い走行環境を経験できる |
| ニューポリトラック | 合成素材を混合したオールウェザー馬場 | 安定した環境での運動 | 気象条件の影響を受けにくく、馬場状態を保ちやすい |
この比較からわかるのは、どの調教コースが絶対的に優れているというわけではないことです。調教師は馬の身体能力や脚元の状態、目標レース、必要な運動強度を考慮して使い分けています。
なお、栗東トレーニングセンターの2025年版資料では、調教日に坂路コースを利用する馬が70%以上と紹介されています。坂路が日常的なトレーニング環境として広く活用されていることがわかります。
スイミングプールを使った調教もあるトレーニングセンターには、通常の走路以外に競走馬用のスイミングプールも設けられています。
水泳は脚に体重がかかる負担を抑えながら全身を動かせるため、心肺機能の維持やリハビリテーションなどに利用されます。栗東では円形プールや直線プールなどが設置されており、競走馬のコンディションに応じて活用されています。
走路での調教が難しい馬や、通常の運動とは異なる刺激を与えたい馬にとって、こうした設備も重要な選択肢です。
【実践編】競走馬の調教メニューと追い切りの仕組み、調教師・調教助手の役割
競走馬の調教は、調教師が全体の方針を決め、調教助手や騎手、厩務員などが連携して進めます。毎日同じメニューを繰り返すのではなく、レースまでの日数や馬の体調によって負荷を調整します。
代表的な調教メニュー常歩・速歩による運動
比較的軽い運動で身体をほぐし、コンディションを整えます。ウォーミングアップやクーリングダウンにも利用されます。
キャンター
駈歩による運動で、一定のリズムを保ちながら走ります。日々の基礎体力づくりや、調教前後の運動に用いられます。
坂路調教
傾斜のあるコースを走り、筋力や心肺機能に負荷をかけます。反復運動によって身体能力を養います。
トラック調教
ウッドチップやダートなどのトラック型コースを走ります。一定の距離を走る練習や、コーナリングを含めた走行能力の向上に利用されます。
併せ馬
複数の馬が並んで走るトレーニングです。ほかの馬と一緒に走ることで競走に近い状況を経験でき、走る意欲や反応を確認することにもつながります。
ゲート練習
ゲートに入る、静止する、合図に合わせて発進するといった一連の動作を練習します。競走ではスタートが重要なため、デビュー前の若馬にも欠かせない訓練です。
追い切りとは?レース直前に行う重要な調教追い切りとは、レース直前の週に行われる速いタイムの調教です。JRAの競馬用語辞典では、レースの3〜4日前に十分に負荷をかける調教として説明されています。
追い切りの目的は、レース当日に向けて馬の状態を整えることです。単に最高速度を確認するだけではなく、動きの反応や走りのリズム、負荷をかけた後の状態なども確認します。
一般的には、水曜日や木曜日に追い切りを行うケースが多く見られます。ただし、出走予定や馬の状態、厩舎の方針によって調整日は変わります。
追い切りの翌日に軽い運動を行うなど、疲労を考慮したメニューを組むこともあります。強い運動を行った後に回復の時間を確保することも、調教の大切な要素です。
馬なり・強め・一杯の違い競馬新聞の調教欄には、馬の走り方や騎乗者による追い方が記載されています。特に覚えておきたいのが「馬なり」「強め」「一杯」という3つの表現です。
- 馬なり:馬の自然な走りを生かし、強く追わずに運動させる。
- 強め:騎乗者がある程度促し、負荷を高めて走らせる。
- 一杯:騎乗者が強く促し、できる限りの力を出して走らせる。
また、調教の形態には単走と併走があります。単走は1頭で走る方法、併走は2頭以上で一緒に走る方法です。
注意したいのは、強い調教をした馬ほど仕上がりが良いとは限らないことです。すでに十分な状態にある馬なら、馬なりの軽い調整でレースに向かうこともあります。
調教師と調教助手は何が違う?厩舎スタッフの役割競走馬の調教を支える中心人物が調教師と調教助手です。両者は同じ仕事をしているわけではなく、役割が分かれています。
調教師は、馬主から競走馬を預かり、馬の管理や調教方針を決める責任者です。馬の能力や状態を考慮して調教メニューを組み、出走するレースも検討します。
調教助手は、調教師の指示を受けて実際に騎乗調教を行う専門スタッフです。調教師の補佐として、馬の動きや調教時の様子を把握し、厩舎運営を支えます。
厩務員は、担当馬の日常的な飼養管理や手入れ、馬房清掃、食事の準備などを担当します。調教後の馬の状態を確認し、異変があれば調教師に報告します。
騎手も調教に騎乗する場合があります。レースでの騎乗だけでなく、日々のトレーニングを通じて馬の特徴を把握する役割も担っています。
2025年版のJRA栗東トレーニングセンター資料では、施設内で働く人員の紹介として、調教師約90名、調教助手約950名、厩務員約250名などが掲載されています。これは栗東トレセンの施設資料における数字であり、全国の総人数ではありません。
加えて、獣医師や装蹄師も競走馬の調教を支える重要な存在です。獣医師は健康管理や診療を担当し、装蹄師は蹄や蹄鉄を整え、脚元の状態を支えます。
競走馬の調教は、騎乗者だけで完結するものではありません。馬の運動、健康管理、食事、休養を担当する人々の連携によって成り立っています。
【調教タイムの見方】調教時計はどこを見る?ハロン・ラップ・評価の読み解き方
調教タイムは、競走馬が調教で走った時間を数値化したものです。競馬新聞や競馬情報サイトでは、調教コースや馬場状態、騎乗者、通過タイムなどと一緒に掲載されています。
初心者が最初に理解したいのは、ハロンとラップの意味です。
1ハロンは約200メートル競馬で使われる1ハロン(1F)は約200メートルです。調教時計では、6Fなら約1,200メートル、5Fなら約1,000メートル、4Fなら約800メートル、3Fなら約600メートル、1Fなら約200メートルを意味します。
例えば、次のような調教タイムが掲載されていたとします。
- 6F:82.1秒
- 5F:66.8秒
- 4F:52.6秒
- 3F:38.6秒
- 1F:12.0秒
この数字は、それぞれの地点からゴールまでにかかった累計時間を表しています。したがって、数字を単純に足し合わせるものではありません。
例えば、6F地点からの全体時計は82.1秒、5F地点からの時計は66.8秒です。この差である15.3秒が、最初の約200メートルの区間にかかった時間になります。
同じように隣り合う地点のタイムを比較すると、各区間でどの程度のスピードを出していたかを考えることができます。
調教時計を見るときの4つのポイント1.全体時計
馬がどの程度の距離を、どれくらいの時間で走ったかを確認します。長い距離を走っているのか、短い距離でスピードを出したのかによって評価は異なります。
2.終いの1ハロン
最後の約200メートルにかかった時間です。追い切りの終盤でどれだけスムーズに加速できたかを考える材料になります。ただし、終いが速いことだけで仕上がりを断定することはできません。
3.ラップの変化
区間ごとのタイムを比較すると、前半から後半にかけての走り方が見えてきます。終盤に加速したのか、一定のペースを維持したのか、最後に時計がかかったのかを確認します。
4.馬場状態と調教強度
良馬場、稍重、重、不良といった馬場状態や、馬なり・強め・一杯という追い方も重要です。異なるコースや条件の時計を単純に比較するのではなく、同じ馬の過去の調教内容と照らし合わせることが基本になります。
2026年の調教タイム計測はどうなっている?調教時計は、単に人がストップウォッチで測っているだけではありません。
JRA栗東トレーニングセンターの2025年版施設資料によると、C・Wコースと坂路コースでは、競走馬の調教ゼッケンにICタグが組み込まれています。コース上に設置された200メートルごとの受信センサーを通過すると、自動的にタイムが測定される仕組みです。
一方、その他のコースでは人による手動計測が行われています。
こうして計測されたタイムは調教参考タイムとして発表され、競馬新聞や競馬情報サービスなどでも活用されています。
JRAレーシングビュアーの調教映像では、調教日、調教場、使用コース、馬場状態、200メートルごとの通過タイムなどを確認できます。数字だけでは把握しにくい走りのリズムや併せ馬の位置関係を映像で確認できる点も特徴です。
調教タイムが速ければ好走する?よくある誤解調教時計について初心者が陥りやすい誤解が、「最も速いタイムを出した馬が最も好調」という考え方です。
実際には、調教時計だけでレースの結果を予測することはできません。
例えば、前走で十分な能力を発揮した馬が、今回も同じような状態を維持するために軽めの調整を行っている場合があります。一方、休養明けの馬は、レースに向けて段階的に負荷を高めている可能性があります。
そのため、重要なのは時計の絶対値ではなく、次のような情報を組み合わせて判断することです。
- 過去の好走時と今回の調教時計の比較。
- 調教コースや馬場状態の違い。
- 馬なり、強め、一杯などの追い方。
- 併せ馬で先着したか、遅れたか。
- 全体時計と終いのラップのバランス。
- 調教後の馬体や歩様の変化。
調教タイムは、競走馬の仕上がりを考えるための重要な材料ですが、それ単独で能力や勝敗を決めるものではありません。
【体調管理と費用】馬の調子の見分け方と調教にかかるお金、2026年の最新事情
競走馬の調子を判断するためには、調教時計だけでなく、馬体や動き、食欲、運動後の回復状態などを確認する必要があります。また、調教を継続するためには、施設やスタッフ、飼料、獣医療などに相応の費用がかかります。
馬の調子の見分け方:チェックしたい6つのポイント1.毛づや
毛並みが整い、自然な光沢があるかを確認します。JRAの競馬用語辞典でも、毛づやは馬の栄養状態や健康状態を把握する手がかりとして紹介されています。反対に、毛が立ってボサボサしている場合には、体調の変化に注意が必要です。
2.歩様
歩くときのリズムや左右のバランスを確認します。特定の脚をかばうような動きや、歩幅の違いが見られる場合には、脚元に異常がないか確認する必要があります。
3.食欲
普段どおり飼い葉を食べているか、水を飲んでいるかも重要です。食欲の低下は体調不良や疲労などのサインになることがあります。
4.馬体の張り
筋肉の状態や身体全体のバランスを確認します。必要な筋肉が維持されているか、極端に細くなっていないかなどを見ます。ただし、馬体の大きさや筋肉の見え方には個体差があります。
5.呼吸と発汗
運動後の呼吸の戻り方や汗の引き具合を観察します。普段と比べて呼吸が荒い状態が続く、異常な発汗が見られるなどの場合は注意が必要です。
6.精神状態
落ち着いて歩けているか、周囲に過度に反応していないかを確認します。レース前に興奮しすぎる状態は「イレ込み」と呼ばれ、余分な体力を消耗する原因になる場合があります。
農林水産省の馬の飼養管理に関する資料でも、健康悪化の兆候として食欲不振、被毛の変化、異常な発汗、跛行、呼吸の変化、異常行動などが挙げられています。
特に、歩様の異常や脚の腫れ、熱感などが見られた場合は、見た目だけで判断せず、獣医師による確認が必要です。
調教後のケアも仕上がりを左右する馬の調子を維持するうえで、調教後のケアは欠かせません。
運動を終えた馬はクーリングダウンを行い、洗い場で汗を流し、馬体や脚元を確認します。その後は飼料や水を与え、休息できる環境を整えます。
午後には歩様の確認や脚部の冷却などを行い、必要に応じて獣医師による診察や治療につなげます。
JRAの栗東トレーニングセンター資料でも、朝の馬体チェックから調教、運動後の手入れ、食事、午後のケアまで、一連の管理体制が紹介されています。
競走馬は自分で体調を説明できません。だからこそ、毎日接している厩務員や調教助手が小さな変化を見つけ、調教師や獣医師と共有が必要です。
馬の調教費用はいくら?中央競馬と地方競馬の違い競走馬の調教費用を考える場合、調教だけにかかる料金と、馬を預かって管理するための預託料を区別する必要があります。
JRAでは、馬主が競走馬を美浦・栗東トレーニングセンターの厩舎に預ける場合、調教師との直接契約によって預託料が決まります。
JRAの馬主向け公式情報では、1頭あたりの預託料は月額70万円程度と紹介されています。この金額には飼料代、飼養管理費、調教費用などが含まれます。厩舎によって金額は異なります。
一方、地方競馬情報サイトの地方競馬全国協会(NAR)が案内する馬主活動の費用では、競馬場や調教師によって異なるものの、入厩後の預託費用の目安として月額15万〜50万円程度が紹介されています。
両者は競馬制度や管理環境、契約条件が異なるため、単純に金額だけを比較することはできません。
2026年時点で確認できる競走馬の購入・育成関連費用競走馬を所有する場合には、預託料のほかに購入費用や育成牧場への預託費用も必要です。
JRAが公表している2025年度サラブレッド1歳市場の成績では、取引価格は次のとおりです。
- 平均価格:1,477万円
- 中間価格:616万円
- 最高価格:4億6,200万円
- 取引頭数:2,383頭
これは2025年度の1歳馬市場における取引データであり、すべての競走馬の購入価格を示すものではありません。血統や性別、年齢、競走実績などによって価格は大きく異なります。
育成牧場の預託料についても、JRAの案内では育成内容、施設、育成技術者の熟練度などによって異なるとされています。放牧や飼養管理、初期馴致、騎乗調教など、どこまでのサービスを受けるかによって費用が変わります。
また、JRA日高育成牧場の案内では、関連施設である軽種馬育成調教場(BTC)の施設利用料について、2026年1月1日現在の料金として、馬場1,000円/日、馬房1,800円/日、宿舎1,300円/泊などが掲載されています。これは施設利用料金であり、育成牧場に馬を預ける際の総額や調教全体の費用とは異なります。
2026年の馬の調教で押さえたい最新ポイント2026年11月時点で確認できるJRAの施設資料や馬主向け情報からは、競走馬の調教が、複数の馬場や計測設備、専門スタッフによって支えられていることがわかります。
特に注目したい要点は次の3つです。
第一に、調教環境の多様化です。美浦・栗東の両トレーニングセンターには坂路、ウッドチップ、芝、ダート、ニューポリトラックなどのコースがあり、馬の状態や目的に合わせて選択できます。
第二に、調教データの活用です。栗東のC・Wコースや坂路ではICタグと受信センサーによる自動計測が行われています。調教映像や通過タイムと合わせることで、走りの内容をより具体的に確認できます。
第三に、健康管理と回復の重視です。調教を強化するだけでなく、獣医師による診療、脚元のケア、飼養管理、休養などを組み合わせることが競走生活を支えます。
【プロの結論】調教の評価は「時計・負荷・回復」の3つで考える馬の調教を正しく理解するために、最も大切なのは、速いタイムだけを追いかけないことです。
調教時計が優秀でも、過度な負荷がかかっていたり、調教後の回復が遅れていたりすれば、必ずしも理想的な仕上がりとはいえません。逆に、馬なりの調整で余裕のある動きを見せている馬が、良い状態でレースに向かっている場合もあります。
初心者が調教情報を判断するときには、次の3つを意識すると理解しやすくなります。
- 時計:全体時計と終いのタイム、過去の好走時との比較。
- 負荷:坂路やウッドチップなどのコース、馬なり・強め・一杯の違い。
- 回復:調教後の歩様、食欲、呼吸、馬体の状態。
この3つを組み合わせることで、数字だけではわからない馬の仕上がりを考えられるようになります。
【馬の調教に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:競走馬は毎日全力で調教するのですか?
A1:いいえ。常歩や速歩などの軽い運動、キャンター、坂路調教、追い切りなどを組み合わせます。強い負荷をかける日と軽い運動の日を設け、疲労回復にも配慮します。
Q2:坂路調教とウッドチップ調教はどちらが効果的ですか?
A2:目的によって異なります。坂路は傾斜を利用して筋力や心肺機能に負荷をかける方法です。ウッドチップは馬場の素材を示す言葉で、平地のトラックにも坂路にも使用されます。馬の状態や目標に応じて使い分けます。
Q3:調教タイムは何秒なら優秀ですか?
A3:一律の基準はありません。走ったコース、距離、馬場状態、追い方、馬の能力によって適切なタイムは異なります。全体時計と終いのラップを確認し、過去の好走時の調教内容と比較することが基本です。
Q4:追い切りはいつ行われますか?
A4:一般的にはレース直前週の水曜日や木曜日に行われることが多く、JRAの競馬用語辞典ではレースの3〜4日前の速いタイムの調教と説明されています。馬の状態や厩舎の方針によって実施日は変わります。
Q5:競走馬の調教には月いくらかかりますか?
A5:JRAの美浦・栗東トレーニングセンターでは、馬の飼料代や飼養管理費、調教費用などを含む預託料が1頭あたり月額70万円程度と案内されています。厩舎や契約条件によって異なり、地方競馬では別の料金水準になります。
Q6:馬の調子はどこを見ればわかりますか?
A6:毛づや、歩様、食欲、馬体の張り、呼吸、発汗、精神状態などを総合的に確認します。特に普段との違いを把握することが大切です。見た目だけで健康状態を判断せず、異常があれば獣医師の診断を受けます。
馬の調教は、競走馬を速く走らせるだけの作業ではありません。放牧や騎乗馴致による基礎づくりから始まり、坂路やウッドチップなどを使ったトレーニング、追い切り、日常的な健康管理まで、多くの工程が組み合わさっています。
坂路調教は傾斜を利用した運動負荷、ウッドチップ調教はクッション性などを生かした馬場環境という違いがあります。調教時計についても、全体タイムや終いのラップだけでなく、馬場状態や追い方を合わせて判断が必要です。
2026年現在、JRAの美浦・栗東トレーニングセンターでは、複数の調教施設やICタグを使った自動計測、専門スタッフによる管理体制が競走馬の育成と調整を支えています。
競馬をより深く楽しみたい人は、調教欄の数字だけでなく、どのコースを使い、どの程度の負荷をかけ、調教後にどのような状態を維持しているかにも注目してみてください。馬の調教の仕組みを理解すると、レース前の準備や競走馬に関わる人々の仕事まで、競馬の見方が大きく広がります。