2026年の国内推薦候補選定によって、彦根城は国際審査へ向けた重要な段階に進みました。
しかし、ここから先は国内の文化財評価とは異なる視点で審査されます。世界遺産として認めるに足る普遍的価値があるのか、そして、その価値を将来にわたって守れるのかが問われます。
文化庁の推薦書は何を証明するのか世界遺産推薦書は、単に城の歴史や建築の特徴を紹介する観光パンフレットではありません。
世界遺産として認められるための価値と、その価値を維持する保存管理計画を国際社会に説明する正式な文書です。
彦根城の場合、特に次の内容が重要になります。
- 顕著な普遍的価値(OUV): 江戸時代の大名統治システムが、世界史の中でどのような独自性を持つのか。
- 構成資産の真正性・完全性: 堀、石垣、御殿跡、重臣屋敷、庭園などが歴史的価値を適切に伝えているか。
- 保存管理体制: 文化財や周辺環境を長期的に保全できる制度と組織が整っているか。
- 地域との連携: 市民や関係団体が保存と活用に継続的に参加できるか。
彦根城の公式FAQでも、登録に必要な条件として、価値の証明、適切な保存管理、地域住民の参加という3つの観点が示されています。
ICOMOSの現地調査とは?ICOMOSは、推薦された文化遺産について専門的な調査を行い、世界遺産委員会に評価を示す諮問機関です。
彦根城についても、2027年度に現地調査を含む審査が予定されています。
この調査で重要なのは、推薦書の説明と現地の実態が一致しているかという点です。
例えば、次のような観点が考えられます。
1. 中堀より内側の構成資産が、大名統治システムを十分に説明できるか。
2. 江戸時代の遺構や建造物が適切に保存されているか。
3. 城郭の歴史的景観が周辺開発によって損なわれていないか。
4. 将来にわたって保存を継続できる管理体制があるか。
5. 観光利用と文化財保護を両立できるか。
これらは文化遺産の価値や保存管理を考える際の重要な評価観点です。個別の調査日程や最終的な審査内容は、今後の正式な手続きによって明らかになります。
2028年の世界遺産委員会で登録が決まる?ICOMOSによる評価・勧告を経た後、最終的に登録の可否を判断するのはユネスコの世界遺産委員会です。
世界遺産委員会は、推薦された資産について専門機関の評価などを踏まえて審議します。
彦根城は2028年の登録を目指していますが、審議の結果によっては、登録、情報照会、登録延期、登録しないという異なる判断があり得ます。
そのため、2028年という目標だけを見て登録確実と判断するのは早計です。
本当の勝負は、彦根城の独自性を国際的な基準で証明し、その価値を守り続けられることを示せるかどうかにあります。
【プロの結論】彦根城の世界遺産登録で注目すべき3つの判断基準

彦根城の世界遺産登録を評価するとき、単純に「国宝だから登録される」「国内推薦候補になったから確実」と考えるのは適切ではありません。
今回の取り組みには、日本の城郭文化を世界史の中で捉え直すという意味があります。
特に注目したいのは、次の3点です。
1.城の美しさから政治制度の証拠へこれまで城郭の価値を語る際には、天守の建築様式や防御構造、保存状態が注目されることが多くありました。
しかし、彦根城の推薦では、それだけにとどまりません。
堀、石垣、御殿、重臣屋敷、庭園という複数の要素を組み合わせることで、江戸時代の地方政治が実際にどのような空間で運営されていたのかを説明しています。
これは彦根城の価値を考えるうえで、非常に重要な視点です。
2.世界遺産登録後も保存できるか世界遺産は登録された時点で役割が終わるものではありません。
むしろ登録後には、世界的な文化財として保存し続ける責任が生じます。
観光客の増加による混雑、交通問題、文化財への負担なども考慮する必要があります。
彦根市の公式FAQでも、登録後の観光客増加に伴う交通渋滞や城内の混雑が課題として取り上げられています。
登録を目指す活動と並行して、地域の暮らしや文化財保護を両立させる仕組みを整えることが欠かせません。
3.彦根城だけでなく江戸時代の歴史を世界に伝えられるか彦根城の推薦が成功すれば、日本の城郭文化を紹介するだけではなく、江戸時代の政治制度を国際的に理解してもらう機会にもなります。
世界史の中で、長期にわたって安定した地方統治を実現した政治体制がどのように機能したのか。
その仕組みを物証から説明できることが、彦根城の目指す独自の価値です。
彦根城の世界遺産登録は、観光地のブランド価値を高めるだけの話ではありません。日本の歴史を世界にどのような言葉で伝えるかという文化的な挑戦でもあります。
【彦根城の世界遺産登録】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:彦根城はいつ世界遺産に登録される予定ですか?
A1:2028年の世界遺産登録を目指しています。2026年9月3日に国内推薦候補に選定され、9月30日には暫定版推薦書がユネスコに提出されました。2027年の正式推薦とICOMOSの審査を経て、2028年の世界遺産委員会で登録の可否が審議される予定です。
Q2:彦根城の世界遺産候補の範囲はどこですか?
A2:中堀より内側の城郭空間です。天守だけでも城下町全体でもありません。堀、石垣、御殿跡、重臣屋敷、庭園など、大名統治システムを示す遺構や建造物が評価の中心です。
Q3:彦根城はなぜ今まで世界遺産に登録されなかったのですか?
A3:1992年に暫定一覧表に記載された後、姫路城が1993年に先に登録されたため、彦根城には姫路城とは異なる世界的価値を説明することが求められました。今回、大名統治システムを示す城郭として独自性を明確にしたことが、大きな前進につながっています。
Q4:彦根城は国内推薦候補に選ばれた時点で世界遺産になったのですか?
A4:いいえ。国内推薦候補への選定は、国際推薦に向けた国内の重要な段階です。その後、政府による正式推薦、ICOMOSの専門審査、世界遺産委員会の最終審議が必要です。
Q5:ICOMOSの現地調査はいつ行われますか?
A5:滋賀県が2026年5月に公表した予定では、2027年度にICOMOSによる審査と現地調査が行われる見込みです。具体的な訪問日程は今後の手続きによります。
Q6:姫路城と彦根城は何が違いますか?
A6:姫路城は17世紀初頭の日本の城郭建築の傑作として評価されました。一方、彦根城は江戸時代の大名と重臣による統治システムを示す遺構がまとまって残ることを、独自の価値として打ち出しています。
2026年11月現在、彦根城の世界遺産登録への道は、これまでにない大きな前進を遂げています。
1992年の世界遺産暫定一覧表への記載から34年。2026年9月3日の文化審議会による国内推薦候補選定、9月30日のユネスコへの暫定推薦書提出と、国際審査へ向けた手続きが進みました。
今回の推薦で最も重要なのは、彦根城の価値を天守の美しさだけでなく、江戸時代の大名統治システムを現在に伝える歴史的証拠として位置付けたことです。
今後の注目点は次の3つです。
- 2027年2月: 政府による正式推薦書の提出
- 2027年度: ICOMOSによる専門審査と現地調査
- 2028年: ユネスコ世界遺産委員会での登録審議
彦根城が世界遺産に登録されるかどうかは、まだ決まっていません。しかし、姫路城とは異なる価値を世界に伝える道筋が見えたことは、30年以上続く取り組みにとって大きな成果です。
彦根城を訪れる際には、国宝天守の美しさだけでなく、中堀や石垣、御殿跡、重臣屋敷、玄宮園にも目を向けてみてください。
そこにあるのは、一つの城の歴史だけではありません。江戸時代の政治と社会を支えた仕組みそのものです。
2028年の世界遺産登録審議に向けて、彦根城が世界にどのような評価を受けるのか、今後の正式発表が注目されます。