「ロールスロイス」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ファントムやゴーストに代表される世界最高峰の高級自動車ブランドだろう。しかし、ロールスロイスという名前は、航空機のジェットエンジンを開発・製造する英国の大手企業にも使われている。
実は、この2つは現在、別々の会社として運営されている。自動車部門はBMWグループ傘下の「ロールス・ロイス・モーター・カーズ」、航空機エンジン部門は英国の「ロールス・ロイス・ホールディングス」だ。両社の歴史は1906年の創業にさかのぼるが、1971年の経営危機を境に事業構造が大きく変わった。
本記事では、創業者ヘンリー・ロイスとチャールズ・ロールズの出会いから、1971年の経営破綻、BMWによる自動車ブランドの継承、ファントム・ゴースト・カリナン・スペクターの特徴までを時系列で整理する。加えて、日本での新車価格の目安や維持費、購入を検討する際の判断基準も解説する。
【まず結論】ロールスロイスとは自動車メーカー?航空機エンジン企業?

ロールスロイスとは、もともと英国で誕生した工業ブランドであり、自動車と航空機エンジンの双方に深い歴史を持つ名称だ。
ただし、2026年現在、「ロールスロイスの車」と「ロールスロイスの航空機エンジン」は、同じ会社が製造しているわけではない。
自動車部門はBMW傘下のロールス・ロイス・モーター・カーズ自動車を製造するのは、正式名称をRolls-Royce Motor Cars Limitedという企業だ。英国ウェスト・サセックス州グッドウッドを拠点とし、BMWグループの完全子会社として運営されている。
同社が展開するのは、ファントム、ゴースト、カリナン、スペクターなどの超高級車。車両の設計・製造では、最新の自動車技術と英国の伝統的な職人技を組み合わせている。
特に特徴的なのが、顧客の希望に合わせて内外装を仕立てる「ビスポーク」というオーダーメイドサービスだ。ボディカラーや内装素材、刺しゅう、装飾などを個別に選べるため、同じ車種でも完成車の仕様は大きく異なる。
航空機エンジン部門は独立した英国企業一方、航空機エンジンを開発・製造するのはRolls-Royce Holdings plc(ロールス・ロイス・ホールディングス)だ。
こちらは航空宇宙産業を中心とする企業で、民間航空機用エンジン、防衛関連の推進システム、船舶・発電向けの動力技術などを手がける。
自動車メーカーのBMWとは資本関係が異なり、BMWの自動車部門ではない。
2つのロールスロイスを比較| 比較項目 | 自動車部門 | 航空機エンジン部門 |
|---|---|---|
| 正式名称 | Rolls-Royce Motor Cars Limited | Rolls-Royce Holdings plc |
| 主な事業 | 超高級自動車の製造・販売 | 航空機エンジンなどの開発・製造 |
| 主要拠点 | 英国グッドウッド | 英国を中心とする国際事業拠点 |
| 資本関係 | BMWグループの完全子会社 | 独立した上場企業 |
| 代表的な製品 | ファントム、ゴースト、カリナン、スペクター | 民間航空機用エンジン、軍用推進システムなど |
| 現在の位置づけ | 超高級車ブランド | 航空宇宙・動力システム企業 |
この違いを理解するうえで重要なのは、ロールスロイスというブランドの歴史的なつながりと、現在の会社としての所有関係を混同しないことだ。
自動車部門はBMWの傘下にあるが、航空機エンジン部門までBMWが所有しているわけではない。両社は歴史的な名称を共有しながら、異なる経営体制で事業を展開している。
【創業から経営破綻まで】1906年に始まったロールス・ロイスの歴史
ロールスロイスの歴史は、単に高級車を製造してきた歴史ではない。英国の自動車産業と航空機産業の発展、そして大規模な企業再編が交差する産業史でもある。
ヘンリー・ロイスとチャールズ・ロールズの出会いブランドの誕生には、技術者として自動車の品質向上に取り組んでいたヘンリー・ロイスと、ロンドンで高級車の販売に携わっていたチャールズ・ロールズの協力があった。
ロイスは機械工学の知識と製造技術を持ち、ロールズは自動車販売と顧客ネットワークに強みを持っていた。異なる専門性を持つ2人の協力が、ロールス・ロイスというブランドの基礎になった。
1904年には両者の協業による自動車が登場。1906年にロールス・ロイス社が正式に設立された。
1906年のシルバーゴーストがブランドを確立創業と同じ1906年に登場したのが、6気筒エンジンを搭載した「シルバーゴースト」だ。
高い静粛性、滑らかな走行性能、精密な機械品質によって評価され、ロールスロイスの名声を高めた。
当時の自動車は、現在のように誰もが日常的に利用する工業製品ではなかった。走行性能だけでなく、信頼性や耐久性、製造品質そのものがブランドの評価を左右していた。
シルバーゴーストは、こうした時代にロールスロイスの高級車としての方向性を決定づけたモデルである。
航空機エンジン事業への進出第一次世界大戦が始まると、ロールスロイスは自動車だけでなく航空機用エンジンの開発にも力を入れるようになった。
同社が開発したイーグルエンジンは軍用航空機に採用された。1919年には、ロールスロイス製イーグルエンジンを2基搭載した航空機が大西洋横断飛行を実現している。
この時代に、ロールスロイスは自動車メーカーとしてだけでなく、航空機エンジンメーカーとしても国際的な評価を獲得した。
1971年、RB211エンジン開発の問題から経営危機へロールスロイスの歴史における最大の転換点が1971年だ。
同社は大型旅客機向けのRB211エンジンを開発していたが、開発上の問題とコスト負担が経営を圧迫。資金繰りが深刻化し、会社は経営破綻に追い込まれた。
英国政府は航空機エンジン事業を国有化し、RB211の開発を継続できる体制を整えた。
同じ1971年には、自動車事業を担うRolls-Royce Motors Limitedが別会社として設立された。つまり、現在の自動車部門と航空機エンジン部門が別々に発展する歴史的な出発点は、この時期にある。
【BMWとの関係を時系列で解説】なぜロールスロイスの車はドイツ企業が製造するのか
ロールスロイスとBMWの関係を理解するには、1971年の再編だけでなく、1998年のブランド取得競争と2003年の新体制発足を押さえる必要がある。
1971年以降、自動車部門は独自の道を歩む航空機エンジン事業が国有化された後、自動車事業はRolls-Royce Motorsとして別会社の道を歩み始めた。
1980年には英国の重工業企業ヴィッカースが自動車部門を取得。高級車の生産を継続しながら、ブランドの所有者は変化していった。
1998年、BMWとフォルクスワーゲンの争奪戦1998年には、ロールスロイスの自動車事業をめぐってBMWとフォルクスワーゲンが競争した。
この取引で複雑だったのは、車両製造設備や自動車事業の資産と、「Rolls-Royce」という名称・商標の権利が同一の所有者にまとまっていなかったことだ。
フォルクスワーゲンは自動車事業の資産やベントレーなどを取得した一方、BMWはロールスロイスの名称を自動車に使用する権利を確保した。BMWグループの公式資料では、1998年7月にブランドの名称使用権を取得し、2003年から新体制で事業を担うまでの経緯が説明されている。
2003年、グッドウッドで新しいロールスロイスが始動2003年1月1日、BMWグループ傘下の新会社Rolls-Royce Motor Carsが事業を開始した。
生産拠点は英国グッドウッドに置かれ、新体制のもとで新型ファントムが顧客に引き渡された。
ここで注目したいのは、BMW傘下になったからといって、ロールスロイスが単なるBMWの高級グレードになったわけではない点だ。
BMWは資本や技術、グローバルな経営基盤を支えながら、ロールスロイス独自のブランド価値と製品開発を維持する体制を整えた。現在もグッドウッドで生産される車両には、英国ブランドとしての個性が色濃く残っている。
ロールスロイスの主な歴史と企業関係の年表| 年代 | 出来事 | 現在につながる意味 |
|---|---|---|
| 1904年 | ヘンリー・ロイスとチャールズ・ロールズが協業 | 自動車ブランドの原点 |
| 1906年 | ロールス・ロイス社が正式設立 | ブランドの創業年 |
| 1906年 | シルバーゴースト登場 | 高級車としての名声を確立 |
| 1919年 | イーグルエンジン搭載機が大西洋横断飛行 | 航空機エンジン事業の実績 |
| 1971年 | RB211開発問題から経営破綻、航空エンジン事業が国有化 | 自動車事業との分離が進む |
| 1980年 | ヴィッカースが自動車部門を取得 | 自動車事業が独立して発展 |
| 1987年 | 航空機エンジン事業が民営化 | 英国の航空宇宙企業として再出発 |
| 1998年 | BMWが自動車向け名称使用権を取得 | 2003年のブランド移行が決定 |
| 2003年 | BMW傘下の新会社がグッドウッドで事業開始 | 現在の自動車部門が本格始動 |
| 2018年 | カリナン登場 | SUV市場へ進出 |
| 2023年 | スペクターを市場投入 | 完全電動化への転換 |
| 2026年 | スペクター・シリーズIIを発表 | EV技術とビスポークを強化 |
この年表から分かるのは、BMWが1906年から続く自動車会社をそのまま買収したという単純な話ではないことだ。ブランドの名称使用権、製造資産、経営主体が複数の段階で移り変わり、現在の体制が成立した。
【2026年最新モデル】ファントム・ゴースト・カリナン・スペクターの違い
2026年のロールスロイスを理解するうえでは、モデルごとの役割を把握することが大切だ。どの車種も高級車だが、想定する用途や車体形状、ブランド内での位置づけは異なる。
ファントム:ブランドの頂点に立つフラッグシップファントムは、ロールスロイスを代表する最高級セダンだ。
大きな車体とゆとりのある後席空間、伝統的なデザイン、細部まで仕立てられるビスポークが特徴。特に後席で過ごす時間を重視するオーナーに適している。
標準モデルに加えて、後席の居住性をさらに高めたエクステンデッド仕様も設定されている。
ゴースト:日常での運転も意識したラグジュアリーセダンゴーストは、ファントムよりも控えめで現代的なデザインを採用するセダンだ。
オーナー自身がハンドルを握る使い方にも適しており、ロールスロイスらしい静粛性や上質感を保ちながら、日常の移動にも対応する。
シリーズIIでは、外観や内装、インフォテインメントなどの現代化が進められている。日本では2025年にシリーズIIが展開された。
カリナン:超高級SUVという新しい選択肢カリナンは、ロールスロイス初のSUVとして2018年に登場したモデルだ。
セダンとは異なる視点の高さと多用途性を持ち、後席の快適性だけでなく、荷物を積む使い方や長距離移動にも対応する。
2024年に発表されたシリーズIIでは、フロントデザインなどがアップデートされ、ブランドのSUVとしての存在感を強めている。
スペクター:ロールスロイス初の完全電気自動車スペクターは、ブランド初の完全電気自動車(EV)として登場した2ドアクーペだ。
電気モーターによる滑らかな加速と静粛性は、ロールスロイスが伝統的に重視してきた乗り心地との親和性が高い。
2026年6月2日には、メーカーがスペクター・シリーズIIを発表した。公式発表によると、WLTP基準の航続距離は最大628kmで、従来仕様から最大18%向上。充電時間も最大14%短縮された。
ブラック・バッジ・スペクター・シリーズIIでは、専用モードによって最大1,100Nmのトルクを発揮する。これらはメーカー公表値であり、実際の航続距離は気温や走行条件、運転方法などによって変化する。
また、ロールスロイス・モーター・カーズは2021年、2030年末までに全製品を完全電動化する方針を発表している。スペクターはその戦略を象徴する存在だ。
【2026年の新車価格と維持費】購入前に知っておきたい現実
ロールスロイスの購入を考える際、車両本体価格だけで予算を判断するのは危険だ。
日本国内の新車価格は、年式やグレード、仕様、発表時期によって変わる。さらにビスポークによる追加装備、登録諸費用、税金、保険、整備費用などが加わる。
2026年時点で確認できる国内のメーカー発表時価格や自動車情報媒体の掲載価格を参考にすると、主要モデルは次のような水準だ。
主要モデルの日本国内価格の目安- ゴースト・シリーズII:3,875万4,000円程度から
- カリナン・シリーズII:4,645万4,040円程度から
- スペクター:4,800万円程度から
- ファントム・シリーズII:6,050万円程度から
- ファントム・エクステンデッド:7,007万円程度から
いずれも国内で確認できる発表時の税込車両本体価格を基準とした目安であり、2026年の個別注文に適用される最終見積額を保証するものではない。
とりわけロールスロイスは、ビスポークによって価格が大きく変わる。内装素材、特別な塗装、専用装飾などを追加すれば、標準仕様の価格からさらに上昇する。
維持費は車両価格だけで決まらないロールスロイスの維持費は、年間走行距離、保管環境、車種、タイヤや部品の交換状況、保証・整備契約の内容によって大きく変動する。
主な費用項目は次のとおりだ。
- 自動車税: 排気量や初回登録時期に応じた税負担。
- 自動車重量税: 車両重量や車検時期などに応じて発生。
- 自動車保険: 車両価格や補償内容、運転者条件などで保険料が変わる。
- 定期点検・整備: 専門知識と専用部品を必要とするため、一般的な乗用車とは費用感が異なる。
- タイヤ・消耗品: 大径タイヤや専用部品の交換は高額になる場合がある。
- 駐車場・保管費: 車体サイズに対応した保管場所や防犯環境も必要になる。
- 電気代: スペクターの場合は充電設備や走行距離に応じた電力コストが発生する。
具体的な税負担を考えると、6.75リッター級のガソリンエンジンを搭載するモデルは、日本の自家用乗用車の自動車税区分で総排気量6リッター超に該当する。2019年10月以降に初回登録された車両の場合、年額は11万円だ。これに重量税や保険、整備費用などが加わる。
スペクターは電気自動車なので、排気量に基づくガソリン車とは税制上の扱いが異なる。ただし、EVだからといって保有費用全体が必ず安くなるわけではない。充電設備やタイヤ、保険、車両固有の整備条件も考慮する必要がある。
特に見落としやすいのが、タイヤや専用部品の交換費用と、長期間保有した場合の整備計画だ。中古車では購入価格が下がっていても、部品交換や整備履歴の確認が不十分だと、購入後の負担が膨らむ可能性がある。
ロールスロイスに向いている人・おすすめできない人ロールスロイスは、単純に移動手段として車を購入する人よりも、快適性や素材、デザイン、個別の仕立てを重視する人に向いている。
向いているのは、次のような購入者だ。
- 後席の快適性や静粛性を最優先したい人
- 自分だけの内外装をオーダーしたい人
- 車両価格だけでなく、長期的な維持費も無理なく負担できる人
- 専門ディーラーとの継続的な関係を築ける人
- ブランドの歴史や職人技に価値を感じる人
一方、燃費や維持費、駐車のしやすさ、購入価格に対する実用性を最優先する人には、必ずしも合理的な選択ではない。
また、所有すること自体が目的になってしまうと、ビスポークや保守管理にかかる費用が負担になりやすい。購入前には試乗だけでなく、整備条件や保証、保管場所まで確認することが欠かせない。
【ロールスロイスとは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ロールスロイスはBMWの会社なのですか?
ロールスロイスの自動車部門であるRolls-Royce Motor Carsは、BMWグループの完全子会社だ。ただし、航空機エンジンを製造するRolls-Royce Holdingsは別会社であり、BMWの傘下ではない。
Q2:ロールスロイスは1971年に倒産したのですか?
1971年、RB211航空機エンジンの開発問題によってロールスロイスの親会社が経営破綻し、航空機エンジン事業が英国政府の管理下に置かれた。同年、自動車事業は別会社として設立されており、現在の2社の分離につながっている。
Q3:2026年に購入できるロールスロイスの車種は何ですか?
代表的なモデルはファントム、ゴースト、カリナン、スペクターだ。セダン、SUV、電動クーペという異なる選択肢があり、シリーズやブラック・バッジなどの仕様も展開されている。
Q4:ロールスロイスの新車は最低いくらから購入できますか?
国内の発表時価格を参考にすると、ゴースト・シリーズIIは約3,875万円から。ビスポークの追加装備や登録費用などによって最終的な購入金額は変わる。
Q5:ロールスロイスの維持費は年間いくらですか?
全車種に共通する固定の年間維持費はない。自動車税、保険、整備、タイヤ交換、駐車場などを個別に計算する必要がある。特に6.75リッター級エンジン車は自動車税だけでも年間11万円(2019年10月以降の初回登録車)がかかる。
ロールスロイスとは、1906年に正式設立された英国発祥のブランドであり、自動車と航空機エンジンの両分野で世界的な歴史を築いてきた名称だ。
しかし、1971年の経営危機と事業再編を経て、現在は自動車部門と航空機エンジン部門が別々の企業として存在している。
自動車部門は2003年からBMWグループのもとでグッドウッドを拠点に再出発。ファントム、ゴースト、カリナンといった伝統的なモデルを発展させ、スペクターによって電動化にも踏み出した。
2026年にはスペクター・シリーズIIが発表され、航続距離や充電性能も改善されている。これは、ロールスロイスが伝統的な高級車の価値を守りながら、新しい動力技術を取り込んでいることを示す動きだ。
【プロの結論】
ロールスロイスを理解するうえで最も大切なのは、「BMW傘下の高級車メーカー」と「英国の航空機エンジン企業」を区別すること。そして、単なる高額な自動車ブランドではなく、1906年から続く技術と職人文化を現代の製品に反映している企業として捉えることだ。
今後の注目点は、2030年に向けた自動車部門の完全電動化、ビスポークの進化、そして英国グッドウッドでの生産体制がどのように発展するかにある。
ロールスロイスの価値は、車両価格だけでは測れない。歴史、技術、乗り心地、個別注文による唯一性。そのすべてを理解してこそ、このブランドが世界最高峰のラグジュアリーカーとして評価され続ける理由が見えてくる。
主な事実確認資料: ロールス・ロイス公式沿革・会社概要、BMWグループ公式ブランド史、2026年6月のスペクター・シリーズII発表、国内自動車専門メディアの価格資料、東京都主税局の自動車税率表。