「悲鳴を上げる」とは、恐怖や驚き、痛みなどによって思わず叫び声を出すことを意味する慣用表現です。一方で、実際に声を出していなくても、仕事の忙しさや経済的な負担、身体の疲労などが限界に達した状態を表す場合にも使われます。ニュースで見かける「物価高に家計が悲鳴を上げる」「人手不足に現場が悲鳴を上げる」といった表現も、その代表例です。
2026年現在も、日常会話からビジネス文書、報道記事まで幅広く使われている言葉ですが、「音を上げる」「声を上げる」との違いや、「悲鳴をあげる」と「悲鳴を上げる」の漢字表記に迷う人も少なくありません。ここでは、辞書に記載された意味や語源を踏まえ、具体的な例文、類語、言い換え、英語表現、間違えやすい使い方まで整理します。
【基本を解説】悲鳴を上げるの意味とは?2つの意味と使われる場面

「悲鳴を上げる」の最も基本的な意味は、恐怖、驚き、苦痛などを感じたとき、思わず大きな声を出すことです。
突然の出来事に驚いたとき、けがをして強い痛みを感じたとき、危険な状況に遭遇したときなど、感情や身体的な刺激に対する反応を表します。
例えば、次のような使い方があります。
- 暗闇から突然人影が現れ、彼女は悲鳴を上げた。
- 足を強くぶつけた子どもが、痛みに悲鳴を上げた。
- ジェットコースターが急降下すると、乗客から悲鳴が上がった。
- 突然の雷鳴に驚き、部屋の中で悲鳴を上げてしまった。
この意味では、実際に声が発せられていることが基本です。「叫ぶ」「絶叫する」「金切り声を上げる」などに近い意味で使われます。
2.困り果てて限界に達する・助けを求めるもう一つの重要な意味は、困難や負担が大きくなり、自分だけでは対処できない状態になることです。
小学館の『デジタル大辞泉』では、悲鳴には「自分だけの手におえず、他に助けを求める声」という意味も掲載されています。『精選版 日本国語大辞典』にも、困り果てることや、弱気なことをいう意味が記されています。
この用法では、実際に叫んでいる必要はありません。精神的、経済的、肉体的な負担が限界に近づいている状態を、声を上げる行為になぞらえています。
例えば、次のような表現です。
- 物価の上昇によって、一般家庭の家計が悲鳴を上げている。
- 人手不足が深刻化し、現場の従業員が悲鳴を上げている。
- 連日の長時間労働で、社員の体力が悲鳴を上げた。
- 注文が予想以上に集中し、製造工場が悲鳴を上げている。
このように、対象は人間に限りません。家計や企業、組織、身体の部位、設備など、負担を受けるものを主語にできます。
3.「うれしい悲鳴」という例外的な使い方興味深いのが「うれしい悲鳴」という表現です。
通常、悲鳴は恐怖や苦痛、困窮など、否定的な状況と結び付く言葉です。しかし「うれしい悲鳴」では、注文や申し込み、問い合わせなどが予想以上に増え、対応に追われているものの、その原因が好ましい出来事であることを表します。
例えば、次のように使います。
- 新商品の予約が殺到し、販売担当者はうれしい悲鳴を上げている。
- イベントの参加希望者が増え、運営スタッフはうれしい悲鳴を上げた。
- 予想を超える売り上げに、店舗のスタッフからうれしい悲鳴が聞こえてきた。
単に忙しいという意味ではなく、好調な結果に伴う忙しさや対応の難しさを、少しユーモラスに表現している点が特徴です。
【漢字・語源】悲鳴を上げるの正しい表記と慣用句としての成り立ち
「悲鳴を上げる」と「悲鳴をあげる」はどちらが正しい?一般的な漢字表記は「悲鳴を上げる」です。ただし、「悲鳴をあげる」とひらがなで書いても誤りではありません。
「上げる」は、声や音を発することを表す場合にも使われます。そのため、「声を上げる」「歓声を上げる」「産声を上げる」と同じように、「悲鳴を上げる」と表記できます。
両者に意味の違いはありません。文章の読みやすさや媒体の表記ルールに応じて使い分ければ問題ありません。
一方、「悲鳴を挙げる」という表記は一般的ではありません。「挙げる」は、例を挙げる、手を挙げる、実績を挙げるなど、列挙や行為の達成を表す場面で使われるためです。
「悲鳴」という漢字が表すもの「悲鳴」は「悲」と「鳴」の2文字から構成されています。
「悲」は悲しみや苦しみなどの感情を表し、「鳴」は声や音を出すことを意味します。文字の構成からも、悲しみや苦しみによって発せられる声というイメージを読み取れます。
ただし、現代の「悲鳴」は悲しみだけに限定されません。恐怖、驚き、痛み、困窮など、さまざまな状況に広がっています。
語源は苦しいときに声を出す行為「悲鳴を上げる」の成り立ちは、苦痛や恐怖を感じた人が実際に叫び声を出す行為にあります。その意味が転じて、困難に直面して助けを求めたり、弱音を吐いたりする状態にも使われるようになりました。
イミダスの「ルーツでなるほど慣用句辞典」でも、苦しいときや恐ろしいときなどに叫び声を出すことに由来する表現として説明されています。
『精選版 日本国語大辞典』には、1900年の泉鏡花『高野聖』における実例として、苦痛を感じた病人が悲鳴を上げる用法が掲載されています。また、1949年の井上靖『闘牛』には、仕事上の負担によって困り果てる意味での用例が紹介されています。
これらは辞書に収録された歴史的な使用例です。少なくとも近代の文学作品では、文字どおりの叫び声と、困難を表す比喩的な用法の両方が確認できます。
【使い方を比較】悲鳴を上げるの例文と類語・言い換え一覧
日常会話で使える例文日常生活では、驚きや痛み、予想外の出来事に対する反応を表すときに使います。
- 突然、背後から声をかけられて思わず悲鳴を上げた。
- ホラー映画の怖い場面で、隣にいた友人が悲鳴を上げた。
- 虫が苦手な妹は、大きなクモを見て悲鳴を上げた。
- 熱い飲み物をこぼしてしまい、思わず悲鳴を上げた。
ビジネスやニュースでは、負担の大きさや限界に近い状況を表す使い方が目立ちます。
- 原材料費の高騰によって、中小企業の経営が悲鳴を上げている。
- 急激な円安で輸入コストが膨らみ、家計が悲鳴を上げている。
- 慢性的な人手不足により、介護現場が悲鳴を上げている。
- 長距離の移動が続き、選手の膝が悲鳴を上げた。
- 大量のアクセスが集中し、サーバーが悲鳴を上げている。
これらの例文に共通するのは、対象となるものが何らかの負担を受け、通常の状態を維持することが難しくなっている点です。
悲鳴を上げるの類語と言い換え表現「悲鳴を上げる」は意味の幅が広いため、状況に応じて言い換えると文章が自然になります。
- 叫ぶ:大きな声を出すこと。恐怖や驚きだけでなく、怒りや呼びかけにも使う。
- 絶叫する:非常に大きな声で叫ぶこと。悲鳴の激しさを強調したい場合に適する。
- 泣き叫ぶ:泣きながら大声を出すこと。悲しみや苦痛を強く表す。
- 弱音を吐く:苦しい状況について、弱気な発言をすること。
- 音を上げる:困難に耐えられず、降参すること。
- 助けを求める:自分だけでは対処できないときに支援を求めること。
- 限界を訴える:負担が許容範囲を超えていることを伝える表現。
例えば、経済的な負担を説明する文章なら「家計が悲鳴を上げる」を「家計が圧迫される」と言い換えられます。仕事の負担なら「現場が悲鳴を上げている」を「現場の負担が限界に達している」とすることで、より具体的な説明になります。
感情的な強さを伝えたいなら「悲鳴を上げる」、状況を客観的に伝えたいなら「負担が増大する」「対応が困難になる」などを選ぶとよいでしょう。
【違いを徹底比較】悲鳴を上げる・音を上げる・声を上げるの使い分け
この3つは「上げる」という共通の言葉を含み、困難な状況で使われることもあります。しかし、伝える内容には明確な違いがあります。
| 表現 | 基本的な意味 | 使用場面・ニュアンス | 例文 |
|---|---|---|---|
| 悲鳴を上げる | 苦痛や恐怖で叫ぶ。困り果てて限界を訴える。 | 身体的・精神的・経済的な負担が大きい状態 | 人手不足に現場が悲鳴を上げる。 |
| 音を上げる | 苦しさに耐えられず、弱音を吐く。降参する。 | 困難に対する忍耐が尽きる状態 | 厳しい練習に新人が音を上げた。 |
| 声を上げる | 大きな声を出す。意見や主張を表明する。 | 発言、抗議、要求、賛同など幅広い場面 | 住民が環境改善を求めて声を上げた。 |
「悲鳴を上げる」と「音を上げる」は、どちらも困難な状況を表せるため、混同しやすい表現です。
「悲鳴を上げる」は、負担や苦痛が大きくなり、限界に達している様子を表します。一方、「音を上げる」は、苦しさに耐えられず、弱音を吐いたり、降参したりすることに重点があります。
例えば、次の2文を比較すると違いが分かります。
- 連日の残業で、社員たちは悲鳴を上げている。
- 厳しい残業が続き、新入社員がとうとう音を上げた。
前者は社員全体が厳しい状況に置かれていることを表し、後者は特定の人物が困難に耐えられなくなったことを表しています。
悲鳴を上げると声を上げるの違い「声を上げる」は、単に大きな声を出すことから、社会的な意見や要求を表明することまで、幅広く使える表現です。
例えば、「住民が騒音問題について声を上げた」という場合、住民が問題を公に訴えたことを意味します。必ずしも恐怖や苦痛で叫んでいるわけではありません。
一方、「住民が騒音問題に悲鳴を上げている」とすれば、騒音によって生活に大きな支障が出ているという、苦痛や負担のニュアンスが強まります。
つまり、意見や要求を伝えるなら「声を上げる」、苦痛や限界を強調するなら「悲鳴を上げる」という使い分けが基本です。
悲鳴を上げるの対義語はある?「悲鳴を上げる」には、すべての意味に共通する決まった対義語はありません。どの意味で使われているかによって、反対の状態を表す言葉が変わります。
恐怖や苦痛による叫び声の反対なら、次のような表現が考えられます。
- 平然としている
- 冷静を保つ
- 落ち着いている
- 沈黙を守る
困難に直面しても弱音を吐かないという意味なら、次の言い換えが適しています。
- 持ちこたえる
- 耐え抜く
- 踏ん張る
- 余裕を保つ
- 屈しない
「悲鳴を上げる」の反対語を探すときは、辞書上の固定的な対義語を探すよりも、文章の中でどの状態と対比したいのかを考えることが大切です。
【英語表現・誤用】悲鳴を上げるを自然に伝えるポイント
英語では scream や shriek が基本文字どおり悲鳴を上げる場合、英語では「scream」や「shriek」が使われます。
- scream:恐怖や痛みなどで大声を出す。
- shriek:甲高く鋭い声で叫ぶ。
- give a scream:悲鳴を上げる。
- let out a scream:思わず悲鳴を漏らす。
- cry out:苦痛や驚きなどで声を上げる。
小学館の『プログレッシブ和英中辞典』でも、「悲鳴を上げる」の英語表現として scream、give a scream、let out a scream、shriek などが紹介されています。
具体的な例文を見てみましょう。
例文1:恐怖で悲鳴を上げる
She screamed in fear.
彼女は恐怖で悲鳴を上げた。
例文2:痛みで悲鳴を上げる
I screamed in pain.
私は痛みで悲鳴を上げた。
例文3:突然悲鳴を上げる
He let out a scream when he saw the spider.
彼はクモを見て突然悲鳴を上げた。
仕事や家計が悲鳴を上げる場合の英語比喩的な意味では、単純に scream と訳すよりも、状況に合った表現を選ぶ必要があります。
- be overwhelmed:仕事や対応に追われ、手に負えなくなる。
- be under strain:大きな負担や圧力を受けている。
- be at the breaking point:限界に達している。
- struggle to cope:対処するのに苦労している。
- cry for help:助けを求める。
例えば、「注文が殺到して会社が悲鳴を上げている」は、次のように表現できます。
The company is overwhelmed by the surge in orders.
注文の急増に会社は対応しきれない状態になっている。
また、「物価高で家計が悲鳴を上げている」は、次のように言い換えられます。
Households are under increasing financial strain due to rising prices.
物価上昇によって、家庭の経済的な負担が増している。
日本語の慣用句を英語に置き換えるときは、言葉の形をそのまま訳すのではなく、実際に何が起きているのかを基準に表現を選ぶことがポイントです。
間違えやすい使い方と注意点「悲鳴を上げる」は便利な表現ですが、使う対象や文脈によっては意味が伝わりにくくなることがあります。
誤解しやすい例1:単なる忙しさだけで使う
「今日は少し忙しいので、悲鳴を上げている」という表現は、必ずしも間違いではありません。しかし、軽い忙しさだけを伝える場合には大げさに聞こえることがあります。
負担が大きく、対応が難しくなっている状況で使うと、言葉のニュアンスが伝わりやすくなります。
誤解しやすい例2:意見表明の意味で使う
「市民が行政に悲鳴を上げた」とすると、市民が苦痛や困窮を訴えている印象になります。市民が政策に対して意見や抗議を表明したことを伝えるなら、「市民が行政に声を上げた」の方が自然です。
誤解しやすい例3:「音を上げる」と同じ意味で使う
「音を上げる」は、困難に耐えられず降参することが中心です。「悲鳴を上げる」は、苦痛や負担によって限界に近づいている状態を強調します。文脈によって重なるものの、完全な同義語ではありません。
誤解しやすい例4:「挙げる」と書く
一般的な表記は「悲鳴を上げる」です。「挙げる」と混同せず、文章全体の表記を統一すると読みやすくなります。
【プロの結論】悲鳴を上げるを正しく使うための判断基準
「悲鳴を上げる」は、単に大声を出すという意味にとどまらず、苦痛や困難が限界に達していることを伝えられる表現です。特に比喩的な使い方では、目に見えない負担を読者に直感的に理解させる効果があります。
例えば、ニュース記事で「家計が圧迫されている」と書くより、「家計が悲鳴を上げている」と表現した方が、生活者が感じている切迫感を強く伝えられます。ただし、客観的な経済状況を説明する記事では、物価や支出などの具体的なデータと併用することで、感情的な表現に偏らず情報を伝えられます。
使い分けの判断基準は次のとおりです。
- 恐怖・驚き・痛みを伝えたい:悲鳴を上げる、絶叫する。
- 仕事や経済的な負担を伝えたい:悲鳴を上げる、負担が限界に達する。
- 困難に耐えられず降参したことを伝えたい:音を上げる、弱音を吐く。
- 意見や抗議を表明したことを伝えたい:声を上げる、異議を唱える。
- 好ましい忙しさを表現したい:うれしい悲鳴を上げる。
また、文章を書く側にとっては、比喩表現の対象を具体的にすることも重要です。「現場が悲鳴を上げる」だけで終わらせず、「人手不足によって介護現場が悲鳴を上げる」と書けば、何が原因で、どこに負担が生じているのかが明確になります。
強い印象を残す表現だからこそ、実際の状況との釣り合いを考えて使うことが、自然で説得力のある文章につながります。
【よくある質問】悲鳴を上げるに関するFAQ
Q1:「悲鳴を上げる」と「悲鳴をあげる」はどちらが正しいですか?
A1:どちらも使えます。一般的には「悲鳴を上げる」と漢字で書くことが多いですが、「悲鳴をあげる」とひらがなにしても意味は変わりません。
Q2:「悲鳴を上げる」は人以外にも使えますか?
A2:使えます。家計、企業、組織、身体の部位、機械などにも使えます。「物価高で家計が悲鳴を上げる」「酷使されたエンジンが悲鳴を上げる」などが代表例です。人以外を主語にする場合は、負担や限界を表す比喩になります。
Q3:「悲鳴を上げる」の類語には何がありますか?
A3:文字どおりの意味なら「叫ぶ」「絶叫する」「泣き叫ぶ」などがあります。比喩的な意味なら「弱音を吐く」「音を上げる」「助けを求める」「限界を訴える」などが使えます。
Q4:「悲鳴を上げる」の対義語は何ですか?
A4:決まった対義語はありません。恐怖や苦痛による悲鳴なら「平然としている」「冷静を保つ」、困難に対する悲鳴なら「持ちこたえる」「耐え抜く」「屈しない」などが反対の意味を表します。
Q5:「うれしい悲鳴」とはどういう意味ですか?
A5:注文や申し込みなどが予想以上に増え、忙しくて対応に追われているものの、その状況自体は喜ばしいことを意味します。商売やイベント運営などでよく使われます。
Q6:「悲鳴を上げる」は英語で何と言いますか?
A6:文字どおりの悲鳴なら「scream」「shriek」「give a scream」などが使えます。仕事や家計などが限界に近づいている比喩なら「be overwhelmed」「be under strain」「be at the breaking point」などが自然です。
「悲鳴を上げる」は、恐怖や驚き、痛みなどによって声を出すことを意味する一方、仕事や家計、身体などが大きな負担を受け、限界に達している状態を表す慣用表現です。
漢字では「悲鳴を上げる」と書くのが一般的ですが、「悲鳴をあげる」も正しい表記として使えます。語源は苦痛や恐怖によって叫び声を出す行為にあり、そこから困り果てて助けを求める意味へと広がりました。
類語との違いも確認しましょう。「悲鳴を上げる」は苦痛や負担、「音を上げる」は降参や弱音、「声を上げる」は発言や主張に重点があります。
また、英語では文字どおりの叫び声と比喩的な限界状態を区別して、scream、shriek、be overwhelmed、be under strain などを使い分けます。
言葉の意味だけでなく、誰が、何に対して、どのような状態になっているのかを意識すれば、「悲鳴を上げる」を日常会話でもビジネスでも自然に使えるようになります。
主な辞書資料: 小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』、小学館『プログレッシブ和英中辞典』、イミダス「ルーツでなるほど慣用句辞典」。